ミューズの気まぐれな贈り物

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 忙しかった一週間の仕事を終え、コートを羽織って会社を出ようとした時、 「久しぶり!今日は定時に終わったのか?」  同期入社の松島に声をかけられる。松島は今は人事部にいるため、営業の自分とはなかなか顔を会わせる機会がない。 「ああ、連日残業だったけど、今日で大口の納品が終わったから、久しぶりに早く帰ろうと思って」 「これからライブハウスに行くんだけど、一緒にどう?」 「え、ライブって何の?」 「ジャズのライブだよ」  学生時代はテニスサークルだったという彼のイメージからはほど遠くて思わず聞き返す。 「お前、ジャズとか聴くの?」 「上司に連れられて初めて聴いたんだけど、これが結構良くってね。時々通ってるんだ」 「ふーん……」  ジャズというと、自分の中では薄暗い店の中でおじさん達がリズムを取りながら聴いていて、うんちくを語り出すイメージしかないんだけど…… でも、家と会社の往復だけになっている自分の日常生活を思うと、松島のように仕事以外のことに目を向けられることがなんだかうらやましくもある。 「じゃあ、行ってみようかな……」  まるで自分のことが認められたかのように松島が嬉しそうな顔をする。 「本当?じゃあ、先に軽く食事を済ませてから行こう」     
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