ランチタイムは天敵と

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 私には天敵がいる。  『天敵』というのは食物連鎖において、自分を捕食する存在、という意味だけど、人間にも、天敵はいる。  たとえば、私みたいに頭が固くて男嫌いで、円滑な人間関係を苦手とする女にとって、キラキラと着飾り、二人ないし三人、もしくは四人で流行りの店に予約していく女は、間違いなく天敵だ。本能的恐怖を感じる。 「あ……」  残業後、電車の手すりにつかまって、ようやく開いたスマホの画面に、大皿の料理写真が映し出される。Twitterのタイムラインだ。読書仲間がリツイートする度に流れてくる。  21時。私は結婚式場で事務をしている。いまは10月、繁忙期の真っ只中だ。この時間に帰れるのはかなり早い。  空腹の胃袋に見せつけるように、テリーヌだろうか緑、白、ブラウンで三層を成す台形型の料理に、とろりとオレンジのソース。  ガタン、と電車がしゃっくりをするようにブレーキを掛け、その拍子に画面を更新してしまう。
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