ランチタイムは天敵と

2/10
前へ
/10ページ
次へ
 すると、また料理の写真が現れる。投稿者はもう覚えてしまった。美琴、という女。  正確には、<美琴@マインドフルネス実行中♪>というアカウント名だ。じゅわじゅわと焼き立てのポークソテー。美味しさが伝わるように、一切れだけナイフで切り取られ、泡立つ肉汁と油が皿に溢れだしている。  ぐきゅううう。  胃袋が堪らず、悲鳴をあげた、しかも大声で。前に回したリュックで腹部を押さえ、そっと辺りを見回す。  飯テロ。  私は会ったこともない女の無差別攻撃に、夜ごとサバンナの小動物のように怯えている。  電車の窓ガラスのなか、くせ毛をひっつめ、毛玉だらけのカーディガンを着た我が姿は問う。  Twitterを開かなければ、飯テロ被害も防げるのでは?  確かにそれは一理。  けれど自分には友達がいない。日々のよしなしごとを徒然に吐き出せるのは、青い小鳥の御前だけである。親指で素早くタップするのは、どこかの誰かも感じているだろう、平凡な疲労とストレス。  ”しごおわ。    お客様が残業で打ち合わせに遅刻  ↓  私も残業  ↓  腱鞘炎悪化”  ふう、とため息をつく。平日この時間に外食を済ませている、ということは、美琴は定時に帰っているのだろう。ナイフを持った指先が時々写っているのだが、その指先はラインストーン付のネイルが施されている。  事務作業によって慢性化した腱鞘炎に悩まされ、クリームを塗るのも億劫になった指先とは天地の差があり、買えない宝石を見るような虚しい気持ちになる。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加