ランチタイムは天敵と

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「なんで、キラキラぶってるんですか? お金持ちのリア充演じるのって楽しいですか?」 「え?」 「毎晩毎晩、私はグルメですってアピールしてますよね……美味しそうな写真ばっかり。でも実際に全部食べてるんですか?」  彼女は少し黙ったあと、表情を変えた。 「食べていますよ」  毅然と顔をあげ、ゆっくりゆっくりと口角をあげる。 「命に感謝して生きるのが私のモットーなので。治療でさんざん苦しみましたし、病院にはまだ、お粥さえ吐いて食べられないお友達もいます。私がツイートをするのは自慢といえば自慢かもしれません。でも、病気を乗り越えたことの自慢なんです」 「病気を乗り越えられなかった人や、私みたいに仕事漬けで余裕のない人にとっては正直、目障りですよ、あなたのツイート!」  剣呑な空気に、周囲のスタッフが声をかけようか迷っている気配を感じた。  美琴は、肩の力を抜いて、ふっと笑った。 「仕事漬け……ですか。ねえ、こっちのテーブルに来て話しませんか」  と、彼女は言った。なぜか私は、頷いてしまった。  ほっとしたように、スタッフたちが私のスープを彼女のテーブルに移す。  ありがとう、と彼女は彼らに会釈した。私に向き直り、 「健康を失うと、いろんなものを失うんですよ。私の場合は、お金、恋人、仕事、家。あ、『家』は彼氏と同棲してたから、です。最近、保険金が振り込まれて、やっと引っ越しができました。でも仕事はなかなか、ね」  語りながら彼女はあっと言う間にスープを空にした。私は自分の放った言葉に、自分が切りつけられている気分になる。肌が痛い。 「持ち物比べをしたら、負けるのは私でしょうね。不幸比べをしたら、勝つのは私。でも比べる時間をこうやって、静かな食事の時間に使ったら? どちらも負けない」 「わざわざツイートしなくてもいいじゃないですか?」 「誰かと分かち合いたいんです。今日はこれ食べたよ、って。みんなそうじゃないですか? ちょっとした気持ち、嬉しかったこと、キレイなもの。私の写真も同じです」  彼女は運ばれてきたメインディッシュの皿を眺め、香りを嗅いだ。いい香り!と誘うように私の顔を見ると、ナイフで手際よく肉を切り、頬張った。スマホはテーブルに伏せられたままだ。 「んー、おいしい! お肉やわらかい!」  私は皿の写真を真上から撮る。なぜか、手が震えた。美味しそうに食事を摂る彼女の笑顔に、深い孤独を見た。私と同じ、等身大の孤独。
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