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中学校に入学して割とすぐの頃、偶然耳にした会話で同じ名字の同級生がいることを知った。もし僕の名字がどこにでもあるようなものだったら、興味を持つことはなかっただろう。だけど僕は、他人で同じ名字の人には会ったことがなかった。
特に、積極的に探すなんてことはしなかった。そんなことをしたら、その人に迷惑が掛かってしまうかもしれないと思ったから。だけどぼんやりしている時とか、ふとその人の存在を思い出すことがあった。
落ち葉が赤や黄に染まり出した頃だったと思う。カウンターで司書教諭の先生と雑談していた時だった。
「――くんは、本当によく本を読むよねぇ」
「ええ、まあ……。読みやすい小説ばっかりですけど」
「それでももう、P10,000は読んでいるでしょう?」
「多分……そうだと思います」
「……あの」
振り返ると、本を持っている生徒が申し訳なさそうな顔をして立っていた。
「あっ、すみません」
邪魔して悪かったと思いつつ、カウンターの脇に避ける。
「学年とクラス、お名前をどうぞ」
「一年F組、――です」
ああ、同級生か……なんてぼんやりしていたから、名前を聞いたときは驚いて、思わず彼女の顔をガン見してしまった。ああ、この人が……。
貸出の手続きが終わり、彼女が図書室を出ていく。僕は先生に挨拶をしつつ、その人を追った。
「あの……っ」
「……?」
彼女は怪訝そうな表情をして僕を見る。カウンターで先生と雑談していた生徒がいきなり自分のことを呼び止めたのだから、それはそうなるだろう。
「はじめまして。僕は――」
「ああ! あなたが……」
彼女も、僕のことは知っていたらしい。それは嬉しく思うが、急に話しかけたものだから、何の話をすればいいのか分からない。
妙な沈黙になる前に何か話題を振らなければ、と慌てていたら、彼女の手元の本が目に入った。
「あの……怖い話は好きですか?」
「え……?」
あほーっ! なんかもっと良い話題はなかったのか、と内心頭を抱えて叫ぶ。そんな僕に彼女は微笑んで答えた。
「ええ。大好きですよ」
それが、僕と『彼女』の出会いだった。
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