第七十六話 農家的風景

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第七十六話 農家的風景

 ───生命の溢れる畑では。緑色の小人や大柄な巨躯に人が混  ざり、実った野菜の収穫作業が行われていた。  畑にて、私は農業組と共に息吹く恵みの収穫作業を手伝う。  小さなナタを使いキャベツを採っては。 「ゴブ。」  側で籠を背負い付き従うゴブリンの、その籠へと採ったキャベツ  を仕舞う。そうしてキャベツの生る畑の一列、その半ばほどまで  収穫すると。付き従っていたゴブリンが片手を上げ。 「ゴブゴブ!」 「ああ。」  等と声を上げ。返事を返すと彼は背負った籠と共にドタドタと私  の下を離れて行く。収穫物は一度畑の入り口へと集められる  ので、其処へ届けに行ったのだ。  まあ。返事は何となくで応えたので、実際行動の意味が分かった  のは最近の事だ。 「ゴブ。」 「おっと次だな。」 「ゴブ!」  私が少し考えていると別のゴブリンが空の籠を背負い此方の  側へ。収穫、運搬の分担作業に歓心しながら、私は再びキャベツ  の収穫作業へ戻る。  作業をしながら少し辺りへ意識を向ければ。  最初に意識を向けた先は直ぐ側。私と同様キャベツを収穫するゴ  ブリンで、二人一組で収穫作業を頑張って居た。  次にもう少し離れた場所、キャベツに似て非なる物。レタスの収  穫をしているヴィクトルの姿。 「! ! !」 「「ゴブ、ゴブ、ゴブ!」」  彼は素早い手際でレタスを刈り進んではゴブリン二人が後に  続き。一人が刈られたレタスを取り、もう一人が籠で受け取って  居た。  何とも息の合った連携で実ったレタスがあっと言う間に刈り取ら  れて行く。レタスが割り当てられた畑は、その半分しか実ってい  ないとは言え、彼ら一組で収穫が熟せてしまうとは。中々の驚き  だな。  私は農業組精鋭とそれを率いるオークから視線を更に動かす。  あちらこちらで収穫作業を行うゴブリン達を越えた先。支柱を支  えに実った赤や黄色の野菜、異世界パプリカ。と言っても形はま  んま元の世界の物と同じ。それを収穫しているイリサ達の姿を見  遣る。 「───?」 「──。」 「─、──。」  生憎、畑の種類違いで距離が遠く。声は勿論見えているのも輪郭  程度だ。それで分かる事は悪魔な少女らしきが実った一つを指差  し、イリサと籠を肩で背負うリベルテの二人が何かを応えている  位だろう。  私は自分の予想よりも大分穏やかな様子のイリサ達に、心の中で  安堵する。悪魔な少女が“嫌々”を全面に押し出していたし、イ  リサを呼んだ時も何事か揉めている様子だったので、少しだけ心  配だった。しかしまああの様子な大丈夫だな。  そう思った時の事。 「───。」  此方に背を向けるイリサがリベルテと悪魔な少女へ何かしたら  しく。 「「!!?」」  二人がイリサから後退り距離を大きく開けた。一体何がったの  だろう? 「?」  何故か見遣る先のイリサも首を傾げ疑問気だ。  畑の手伝いは少なくなったが、それでもこうして手伝いに来る事  は結構ある。手伝う内容に依っては男女に別れ作業するのだが、  思えばイリサは度々リベルテらとあの様な事がある気がするな。  聞けば住む事なのだが、出来事全てを知る必要はないと思う。  イリサの全てを知らずとも、イリサを娘として愛せるのだから。  ……それと。謎を謎のまま楽しみたい自分も居るしな。 「? ………。」  不意に、眺める先のイリサが突然此方へと振り返る。  まさかあの距離から私が見えているのか? 半信半疑で私は手を  振ってみる。 「! !!!」 「(おお。)」  向こうにも見えていたらしく大きく手を振り返してくれた。そう  して少しイリサと手を振り合い。私は再びキャベツの収穫へと戻  る事に───  ───収穫すべき物も収穫し終え。手伝いの済んだ私は畑入り口  へと向かう。その道中。 「! ヴィクトル。」 「親方。」  同じく畑入り口へと向かう彼と鉢会い、そのまま連れ立って  歩く。歩きながら私は彼へ。 「そうだ。傍から見ていたが凄い手際だったな、レタスの  収穫。」 「ああ。」  少し嬉しそうだな。彼も褒められて悪い気はしないのだろう。 「何かコツでもあるのか?」 「……知りたいか?」 「出来れば。」 「なら今度教えよう。」 「それは助かるよ。」  等と。入り口までの短い道のりを彼と話し。次回の手入れではヴ  ィクトルから手入れのコツを教わる約束をしては、畑の入り口へ  と到着。  入り口には女性ゴブリン達が麦や玉ねぎに何やらと、収穫物の仕  分けをし。 「お父さん!」 「イリサ。」  私を見付け駆け寄るイリサの姿も。その後ろにはリベルテと、  疲れた様子の悪魔な少女。 「三人共お疲れ様。」 「お父さんもお疲れさまです。」 「お疲れさん。」 「……。ダル……。」  三人からの返しを受け。私は一度ヴィクトルへ。 「昼の後はどうする積りなんだ?」 「今日収穫したから、次の合わせと手入れがある。」  ふむふむ、次は合わせか。  この村の畑では作物の成長が爆速。だからと言って畑全体がそう  とは言えない。畑は大きく、そんな事をしては食材が供給過多で  溢れ、最悪腐らせる何て事にもなってしまう。最初は魔法の水だ  けで育てていたが今は普通の水で育てつ物も。そもそもあれは冬  への備えでしていただけだったらしい事に。後になって私は気が  付いた。 「(農業は完全にヴィクトル達に任せているからな。)」  彼らは誰に何を言われずとも溢れぬ様。ヴィクトル達農業組は、  私が魔法で精製した水を使う区や量を調整しては、野菜それぞれ  の成長スピードに差異を生んで管理を行って居たのだ。  私は勿論彼らも『何故魔法の水で?』と言った仕組みは特に分か  っていない模様だが、使える物は使えるとし。この以上な生育ス  ピードに勘と、積んだ僅かな経験で対応と応用を行っているのだ  から、彼らの頼もしさよ。おまけに野菜の種類も加味して水の量  を考えているのだから、頭の上がらぬ管理と手入れ。  それを手伝う事に何ら抵抗は無く、もう一つの楽しみへの手入れ  も手伝いたい、のだが。 「……すまない。午後の手伝いを抜けても良いだろうか?」 「む?」 「ちょっと相談事をしたい人物が居て、それを訪ねたいんだ。」 「構わない。オレ達だけでもやれる。だが……良いのか?」  むむ。アレの事だな。植える時にお互いソワソワしていたから、  互いがアレを楽しみにしている事は分かる事だ。むーしかしっ。 「ああ。収穫の時にまた手伝う事にするよ。」 「そうか。分かった。」 「すまない。」  私の言葉にヴィクトルは小さく首を左右へ振り。“謝罪は必要  無い”と此方に示す。そんな彼へ一度頷いて見せ。 「そう言う理由で、畑の手伝いを午前で切り上げますが。イリ  サ達はどうする?」 「お邪魔でなければ私はお父さんの用事にご一緒したいです。」 「勿論良いよ。」  笑みを浮かべ隣へ歩み寄るイリサへ私も笑顔を一つ送る。 「アタシ……は、午後の手伝いもしてくわ。此方に人手がいりそ  うだし。」 「あたしももう少し残る。」 「お。手入れが楽しくなって来た?」 「まあ意外───! いや全然。もう少し待ちたいだけ。」 「ふ~ん。」 「……ウッザ。」  何だかんだと二人の仲は其処まで険悪、と言った事は無いので。  リベルテが悪魔な少女と一緒なら大丈夫だろう。悪魔な少女も  少女で楽しんでいる様子だし、何をするにもトラウマがそれを  許すまい。……抑止と言う意味では怖がられるのも必要か。 「分かりました。二人は畑に残るんですね。」 「ええ。」 「ではどちらかクロドアの事をお願いできますか?」 「クロドアちゃん?」 「実はさっき此方へ連れてこようとしたのですが、寝てま  して。」  クロドアは私のコートの上で気持ちよさそうに昼寝をして居  たので、私はそのままにして此方へ戻って来た。 「はいはい了解。んじゃ帰りに連れて帰るわね。」 「お願いします。それじゃあ私は───っと。」  そろそろだろうと畑入り口から村の方の道を見遣れば。 「お届けお届けお届けゴブよー!」 「……何で転ばないゴブ?」  見遣った先からパンを載せたトレイを抱えたニコが走って登場。  それに加え、コスタスと他のゴブリン達の姿。彼らが運び込んだ  物は農業組への昼食だ。  途中ニコやオディ少年の姿が畑に無いので、取りに行ってる事は  分かっていたが。 「コスタスも一緒だったのか。」 「親方様。」  此方に近付く革鎧を来たゴブリン、コスタスと挨拶を交わす。 「今日は畑にヒトが多いゴブからって、ニコに頼まれました  ゴブ。」 「成る程。借り出されたのは皆か?」 「見張りはちゃんと残しましたゴブ。」  コスタスはゴブリン族の戦士長。なので彼と彼の部下は村の周囲  に怪しい人影は無いか、常に警戒してくれて居て。  元々はそれ程の物ではなかったが村に騎士の一団が来てからは警  戒のレベルを底上げして行っている。  そんな彼から野菜にソースが覗くパンと布を受け取り、布で包ん  だパンを隣のイリサへ手渡す。 「お昼は向こうでも良いかい?」 「大丈夫です。」 「よし。」  イリサの返答を受け取った私は。 「それじゃあお先に。」 「皆さん無理はしないでくださいね。」  残る者たちへ言葉を送り。それぞれからの返しを受け。  畑を後にして村へと向かう───
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