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プロローグ
───夜も更けた村。点在する家屋の中で唯一明かりの灯った大
きな家の中、本棚の置かれた室内では黒の男と……。
「見てると頭痛くなってくるわ……。」
「そうですか?」
赤毛を結った女性、リベルテが読んでいた本から顔を上げ目頭を
抑えて見せ、イリサが笑みを浮かべては綺麗な金色の髪を僅かに
揺らしている。傍らには周りに一切の興味の無い魔法研究者の
姿も。
「そもそもイリサはこれ読んで楽しいの?」
「ええ。」
「内容分かんないんだけど魔法の事なのよね?」
「そうですよ。」
「良いなぁ~。」
リベルテは本をイリサへと手渡しソファーへ腰を預け。
「魔法を使うにはソレ読めないとでしょう? アタシ読めないか
ら才能無いんだろうなぁー。」
「そんな事は無いですよ。リベルテだってシャワーを使うのに魔
法を使ってるじゃないですか。」
「あーアレ? アレはほら、何かイメージした魔法と違くない?
もっとこう、ちゃんと魔法が使えたらなぁー……。イリサは使え
るんでしょ?」
「少しだけですよ。」
「格好良い、格好良くてズルイ!」
「!? ちょ、ちょっとリベルテ!」
じゃれつく二人。それを書斎の机から見詰めては。
「(楽しそうだ。)」
娘の笑顔は何物にも勝る。二人の様子を噛みしめる如く見詰めて
居ると。
「それはさっき───」
「───はぁ? アンタあたしに───」
書斎へリビングの方から言い争う声が届く。言い争っているのは
あの偽物姉弟二人か。
「ん。ちょっと様子見てくる。」
「急に素に戻らないでください……。」
「アハハ。」
攻防を繰り広げていたリベルテがリビングへと向かう。
「……また摘み食いか? それとも果物の取り合いか?
此処での暮らしに慣れたのは良いのだがな、全く。」
「ふふ。どれでしょうね。」
あの二人のやり取りは偽物と言えない程度には姉弟じみている。
リベルテが書斎を離れ少しすると。
「イリサー!ちょっと来てー!」
「! はーい!」
彼女だけでは諌められなかったのかイリサが呼ばれる事に。
呼ばれたイリサは私へ挨拶を残し部屋を去って行く。するとリビ
ングで何やら賑やかなやり取りが聞こえてくる。やれやれ。
「この村も家も、随分賑やかになったじゃないか。なぁ?」
『?』
私は聞こえてくる声に耳を僅かに傾けながら、膝上に乗るクロド
アの暖かな背に手を乗せ。
少しの間瞼を閉じる───
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