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《一》  四月。 田中茉莉(たなかまつり)は、晴れやかな顔で、とある雑居ビルを見上げていた。 青空を映すガラス窓。 反射する、春の陽光。 ビルの壁面には、各フロアを占有する企業の看板が、整然と縦に並んでいる。その丁度上から三番目に、茉理がこれから向かうフロアの名称が掲げられていた。  『三日月調理師専門学校』。 和食、洋食、中華、製菓──それらの調理の基本を学ぶ為の専門校である。フロアに向かうエレベーターに乗り込むと、茉莉は、込み上げる緊張を鎮める様に、密かに己を鼓舞した。 (…よし。頑張れ、私! ここで基礎を学んで、すずかぜ食堂の全メニューを作れるようになるぞ!)
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