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律とまりかちゃんの結婚3
後日。
敦史と週末の買い出し帰り、両手に食材や日用品で一杯の袋を持った俺たちは、エレベーターで学校帰りのまりかちゃんと会ってしまった。
「こんにちは」「こんにちは」
いつも通りの挨拶を交わすと、敦史が何か言いたげに俺を見つめ、肘で俺の腕をちょいちょいとつつく。
え、今、言うの?
と俺が焦って敦史とまりかちゃんの間で視線を泳がせていると、何を思ったのかまりかちゃんが突然、「ごめんなさい!」と俺に頭を下げた。
それから顔を上げて、
「ごめんね、りっちゃん。あの作文を書いた後、同じクラスの翔くんに告白されてつき合うことになったの。だから結婚の約束はなかったことにしてね」
そう言って恋多き小学生のまりかちゃんは、可愛い顔に可愛い笑顔を浮かべて、エレベーターを走って降りて行った。
これから翔くんや他のクラスメートと遊びに行くらしい。ダブルデートだそうだ。
なにげに「りつお兄ちゃん」が「りっちゃん」呼びになっているのも気になる……。
呆気にとられた俺と敦史は無言のまま自分の家に帰った。
「なんか、俺、いつの間にか振られたの?」
キッチンで買ってきた食材をテーブルに並べて、冷蔵庫に入れるもの、冷凍庫に入れるもの、野菜室に入れるものを仕分けしながら、俺はぽつりと呟いた。
なんだかとっても理不尽な気分。
「大丈夫、りっちゃんには俺がいるよ」
隣りに立った敦史の手が俺の頭をすりすりと撫で、そのまま敦史の胸元にギュッと引き寄せられた。
「いや、別に慰めて欲しいわけでもないんだけど……」
「分かってる。でも俺はライバルが一人減って嬉しいよ」
頭の上から笑いを含んだ敦史の声が降ってくる。
「ライバルって、小学生じゃん」
アレ、ツッコむ所はあってるか、俺。
「りっちゃんのこととなると、俺はとんでもなく心が狭くなるんだよ。それは分かっといてね」
「…………」
く、唇がつむじのあたりに当たってるみたいなんですけど…敦史さん!
それでもって、何、言ってんだよ?
そう言いたいけど、心臓がバカみたいに早くなって、体温が上がって、何も言えない。
風邪か、インフルエンザか?
どうする、どうなってる、どうしたらいい?
混乱する俺をよそに、だけど敦史はあっさり俺から離れて言った。
「あ、ヤバイ、溶けちゃうね」
カチコチに固まった俺とは反対にテーブルにの上に放置されていたアイスは汗をかき始めている。
それを敦史は慌てて冷凍庫に入れた。続いて他の冷凍食品もてきぱきと。。
料理はまるでダメな敦史だけどそういうところはしっかりしてるんだ。
今日も牛乳とか洗剤とか、重いものを率先しいて持ってくれていた……ことに、テーブルに並んだ買い物を見て今気付いた。
なんだろう、胸が変だ。
キュウっと締め付けられるような。
変、変、変、へんだ。俺が変だ。
このままだとおかしくなりそうで、俺は敦史から距離を取るために、慌てて買ってきた洗剤を引っつかんで持って風呂場に走った。
「りっちゃん?」
急に動いた俺の背中に敦史の不思議そうな声が届く。
だけど俺は振り返らずに「そこは任せた!」と言い置いて、脱衣所に駆け込み、ドアを背にしてため息をついた。
「何、バタバタしてるの?」
雅治さんが敦史に尋ねる声が聞こえたけど、俺はそのままずるずると床に座り込み、膝を抱えて何度も深呼吸をして息と気持ちを整えるので精一杯。
なんだよ、どうしちゃんたんだよ、俺。
敦史が優しいのも、やたらとくっついてくるのも、言動がおかしいのも、いつものことなのに。今日に限って俺はおかしくなっちゃったみたいだ。
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