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夕ご飯にて
「いただきます!」
風呂上がりの敦史が、目を輝かせてテーブルにつくなり両手を合わせる。
今日のメニューはこいつのリクエスト通り、チキンライスにハンバーグにアボカドサラダ。とコンソメスープ。
育ち盛りの敦史はともかくよく食う。部活も頑張ってるし。
「はい、召し上がれ」
箸をとって俺の作った飯にがっつく男子高校生の姿に思わず笑みが浮かぶ。
今、俺は「兄」じゃなくて「母」の気分かも……。
「敦史、口の横にソースついてる」
だからついつい世話を焼きたくなっちゃんだよな。
「え、どこ?」と、敦史が逆の頬を擦るので、テーブルの向かいから手を伸ばし、指で拭ってやる。
「取れた」
「ありがと、りっちゃん」
そして食事再開。
その時、テーブルの別の一角から、低い声が聞こえてきた。
「あのさぁ、あんた達、完全に私の存在忘れてない?」
この家のもう一人の住人、というか家主の雅治叔父さんだ。俺と敦史の母親の弟にあたる。俺たちの両親が一遍に亡くなってしまった時、遺された俺たち二人を引き取ってくれた大恩人。
「新婚夫婦の家庭に入り込んだお邪魔虫の気分だわ」
男だけど「美人」て言いたい端整な顔立ちの人。実際、そう言うとすごく喜ぶし。でも今はその綺麗な顔に不似合いなふて腐れたような表情が浮かんでいる。
「何、それ?幸彦さんとまだ新婚気分なワケ?」
俺が言うと、雅治さんの眉がキリキリとつり上がり、俺は自分が地雷を踏んでしまったことに気付いた。
「違うわよ!”あんた達”って言ってるでしょ!どうせ私と幸彦は倦怠期よ!もう3週間も会ってないわよ!」
グスグスと鼻を鳴らす雅治さんに、俺が呆れて固まっていると、敦史がスッとティッシュの箱を差し出した。
「ありがと、あっくん、いい男に育ったよね。それに引き替え幸彦ときたら……」
ティッシュで涙と鼻水を拭く雅治さんを横目に、俺と敦史は顔を見合わせ苦笑い。
幸彦さんは、雅治さんの同性の恋人だ。現在海外出張中。
雅治さんが俺と敦史を引き取ることになったのを期に幸彦さんも一緒に暮らし始めたのでもう6年になるのかな。幸彦さんとは血は繋がってないけど、俺たち4人は家族だ。
俺と敦史と雅治さんと幸彦さん。
四角いテーブルの一辺ずつに、一人ずつ座って食卓を囲むのがいつもの食事風景だった。今は一人足りないけど。
「幸彦さんだって仕事なんだから責めたら可哀相だよ。今だってしょっちゅう電話だのメッセージだの送り合ってるだろ」
面倒臭くなった俺は、この話を終わらせようとそう言ってみたんだけど、それはさらに火に油を注ぐだけだった。
「律ってば何で幸彦の味方するのよ!あっくん、何か言ってやって!」
言われた敦史は、
「大丈夫、幸彦さんはちゃんとまぁくんのこと愛してるよ」なんて言いながら宥めにかかる。でも失敗だ。
「う~、あっくんてば、中身もイケメン~!律には勿体ないわよ」
敦史が甘やかすから、雅治さんがさらにワケ分かんなくなり始めた。
こういう時、幸彦さんが居てくれれば、上手いこと雅治さんを宥めて転がしてくれんのに。
「あ~、幸彦さん、早く帰ってこないかなぁ」
心の声が思わず洩れる。
「あんな薄情な奴~」
ついにはえぐえぐと酷い顔で泣き始める雅治さん。
そんなこと思ってもないクセに。6年も一緒に暮らしてて、3週間離れただけでこんなに拗ねるとか、大人げなさ過ぎ。
「大丈夫だって、来週には帰ってくるんだし」
「あ~うざい!黙って飯食えよ。敦史、もう構うな」
「律が冷たい~。あっくんが私に優しいからってヤキモチ妬かないでよね!」
「妬くか!」
泣く雅治さん、宥める敦史、怒る俺。
その日の夕飯は、こんな感じでごちゃごちゃと混乱のうちに終わった。
雅治さん、幸彦さんと離れてものすごくストレス溜まってるみいたいだ。
幸彦さん、マジで早く帰ってきて!
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