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噂ばなしのこと
「北見って、三田村くんとつき合ってるの?」
その衝撃的なセリフは、同じクラスの藤村さんの口から飛び出した。
藤村さんとは今年初めて同じクラスになったけど、男みたいに……時々は男より……さっぱりした性格で、俺の人生で初めてできた女子の友達だ。
弁当を食べていた関谷はおにぎりを喉に詰まらせゴホゴホとむせ込み、俺はといえば言葉の意味がよく分からず、箸でウィンナーを掴んだままポカンとして藤村さんの顔を見返すしかない。
ていうか、同級生の俺が「北見」と呼び捨てで、何で一コ下の敦史が「くん」付けなの?
そんな俺たちを冷めた目で見ていた藤村さんは、近くのイスを引き寄せてそこにどっかりと腰を下ろし、もう一度言った。
「北見と三田村くんがつき合ってるって噂があるらしいんだけど」
「俺と敦史が?って、俺ら従兄弟だけど……藤村さんも知ってるよね」
「知ってる。でも三田村くん、女の子に告白された時、りっくんが好きだからって断ってるんだって」
藤村さんの言葉にせっかく治まりかけていた関谷の咳がまた激しくなる。
でも俺にはそれに心当たりがあった。ていうか、俺には今さらな感じなんだけど。
「ああ、それ?それって結構昔からだよ」
言ってみてちょっと胸にチクリと不快感が走るのを自覚した。そうだよ、敦史の奴は昔っからモテてたよ。
「あいつあんなんだから、昔からよく告白とかされてたんだよね。真面目だから断るのに苦労しててさ。で、困って俺の名前出したらすぐ諦めてくれたんだって、それ以来かなぁ」
「ふーん、そうなんだ」
藤村さんはナゼか不満げだ。
「いや、それってすっげえ贅沢な悩みじゃね?」
ようやくむせ込みから立ち直った関谷が、地の底を這うような嫉妬むき出しの声で言った。
「そうだよ、でもしょうがないじゃん、敦史だし」
「それ理屈になってねぇよ」
と、関谷がツッコんでくるけど、全然聞いてなさそうな藤村さんはポンと手を打って言った。
「分かった。つまり三田村くんの片思いなわけね」
何でそうなる?
藤村さんの顔がすっきり晴れやかで、逆に怖いんですけど。
「確かに敦史はちょっとブラコン気味だけど、そんなんじゃ……」
言いかける俺の言葉を今度は関谷が遮った。
「藤村、正解。で、北見は無自覚、と」
関谷がまたおかしなこと言い出してるし。
「よ~く分かった。北見、安心していいよ。私、偏見とかないつもりだから、つき合い始めたら遠慮なく言って」
「あ、俺も、俺も。むしろ周りに迷惑だからはやくまとまって落ち着いて欲しいくらいだよ」
関谷だけじゃなく、藤村さんまでおかしくなった?
とりあえず、帰ったら敦史に告白断るのに俺の名前出すのやめるよう言っとこう。
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