4/6
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/85ページ
 逃げ出したい衝動を必死でこらえるすゑに、神の恵みが訪れた。別室へ一旦退いて、衣装替えを行うようである。結婚式の手はずなど何も知らないすゑは、母親と姉たちに連れ出され、なされるがままにされていた。  白無垢のつぎは赤打掛だ。角隠しも取り、髪を結いなおす。純白で清楚な花嫁が一転、きらびやかな着物に早変わりし、皆の視線を集める趣向らしい。目立ちたくはないのだが、衣装を着飾ってくれている母親と姉たちが楽しそうにしているのを見ると何も言えなくなってしまった。それに、すゑが今更何か言ったところで変わることなど一つもないだろう。 「すゑ、綺麗やねぇ。これで宮崎家も全員結婚できたし、めでたしめでたし」  面倒見のいい長女である、姉の一人が言う。他に次女と三女もこの場におり、その下に兄の兼三郎がいて最後にすゑとなる。女の割合が高い五人姉弟だ。 「どうね、旦那様は。少しは話したっちゃろ。身体も太かし、頼りになりそうな男やないかね」  次女が面白そうに言った。この姉は昔から人をからかったりするのが好きな困った性格ではあるものの、明るく振舞うので誰にでも好かれる。話好きなのは玉に瑕かもしれないが、根は優しい姉だ。 「うん、まだようわからんけど。多分、悪い人やないとは思う」 「よかねぇ、あたしもたくましい人に貰ってほしかったわぁ」
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!