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「はるちゃん」
彼女の名前を呼ぶ。彼女はぼくの胸の中で優しく微笑んだ。
「はるちゃん……本当に、いいの?」
ぼくは怖かった。母親のように彼女を失いたくなかったから、はるちゃんに手を繋ぐ以上のことはしたことがない。
でも今日は、二人が出会ってちょうど10年が経つ――はるちゃんは「今日を迎えたら、もっと先の関係まで進んでもいい」と、ずっと前から言ってくれていた。
「……いいよ」
胸がぎゅうっと苦しくなった。ぼくははるちゃんを抱きかかえて、寝室へ移動した。
ベッドのスプリングが軋んだ。ぼくの下では、はるちゃんが大人しくなってぼくを見つめている。
「はるちゃん……大好きだよ」
ぼくは彼女の唇にそっと口づけた。天使の甘い吐息がぼくの唇をかすめた。ぼくの身体が興奮でぶるりと震え上がる。
「んっ……わたしも……望のことが大好きよ」
キスの合間にはるちゃんが呟く。ぼくはまた泣きそうになった。
――はるちゃんに出会えてよかった。彼女と共に生きてこられてよかった。ぼくは世界一の幸せ者だ。嬉しさと興奮と愛おしさとで、胸がいっぱいになった。
はるちゃんの白くて柔らかい身体を抱きながら、ぼくは思う。
はるちゃんとの出会いを、ぼくは一生忘れないだろう。
ぼくの目の前に天使が現れたあの日のことを。
まだ小さかったはるちゃんの手を取って、二人で歩き出したことを。
――ぼくらのあの日の出会いが「東京駅少女誘拐事件」と名付けられ、今も未解決であることを。
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