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「はるちゃん寒くない? だいじょうぶ? ぼくのマフラー使う?」
「平気だよ」
完全防寒使用の望に対して、波留はそこまで厚着ではない。
「寒くなったら言ってね」
「ん」
望は波留の手を取り、自分の上着のポケットに突っ込んだ。
「はるちゃんと一緒にお出かけできてうれしいな~」
上から無邪気な声が聞こえる。望は180cm近い身長があるため、波留が首を大きく曲げないと彼の顔は伺えない。
「……うん。わたしも」
「えへへっ」
望は嬉しさを抑えきれないのか、波留の腕に巻き付いてくる。じゃれる子犬のようだ。
(あったかい……)
腕から彼の体温が伝わってくる。ただ腕を組んでいるだけなのに、ひしひしと彼の熱烈な愛情と歓喜が伝わってくる。ただ――
「望」
「なに? はるちゃん」
「ちょっとくっつきすぎ」
「あ、ごめんっ」
望の腕がぱっと離れていく。途端に彼の気配が消えたような気がして、波留は心細くなった。でも、仕方がない。他人の目がある街中であまりくっつくのもご法度だ。
「もうすぐクリスマスだねぇ」
望が言った。街中が色鮮やかなイルミネーションで華やかな情景を演出している。仲睦まじいカップル、和気藹々とした家族連れ。眩しい表情を見せる彼らと同じように、二人の足取りもどこか軽やかだ。
「はるちゃんはクリスマスプレゼント何が欲しい?」
考える。けれどぱっと思いつくようなものは何もない。
「……特にない。っていうか、思いつかない」
望はおかしそうにくすくすと笑う。
「はるちゃん……それ去年とおんなじ台詞だよ」
「え? 本当?」
「うん。はるちゃんはもっと欲張りになっていいんだよ。ぼくみたいにさ」
そうかもしれない。けれどわざわざ手を伸ばしてまで欲するものなんて―――波留はふと男を見上げた。ふんふんと鼻歌を唄う望の横顔。
この能天気な男が自分の隣にいてくれるのなら、それでいい。それが波留の何よりの幸せだ。
(わたしもまあよくもここまで骨抜きにされちゃったな……)
心の中で苦笑する。出会いこそ最悪だったのに、彼とここまで親密な関係になってしまうなんて――望という男はほんとうに恐ろしい。
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