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彼に対する判断材料
人はみんな、彼のことをさして目立たない人間だ――と言う。
らしい。
果たして本当にそうなのだろうか……。
授業中の彼は、真剣なようでいて実はひたすらぼけ~っとしているだけであることをみんなは知らない。悔しいことにそれなりに成績は良いので。授業で当てられてもそつなく答えるししかも大正解。たまたま目にした小テストの点数は私よりも高かった。解せぬ。
そして、いつもあらぬ方向を見ているくせに、いきなり振り向く。斜め後ろ四十五度の角度で。それは私が彼の斜め後ろの席にいるから。
つまり私を見る。
自分が相手を見てて、相手も自分を見ていると起こる現象というと、
――目が合ってしまう。
これがいわゆるアイ・コンタクトいやそれは違うじゃあ視線と視線が絡み合うあああそれはなんかイヤ! もう少し健全な表現を求めて私は国語辞典の奥地へ……旅立った! うん旅立った!
あっ、ほら見なさい力みすぎてシャーペンの芯折ってしまったじゃないの!
そして当の『彼』はというと……。
――極上スマイル。
にこーっ。まさににこーっ。なんて爽やかなの……見える、見えるわ背中の花が。少女漫画だったら満開の花トーン貼られてるわ。
思わずつられて笑顔を返す不埒な私。私だって女子たるもの笑えば花くらい背負えましてよ!? 女子高生は無敵なの、って世間様が仰ってますし! 負けてなるものか。
……何この不思議な光景は。
*
彼に対する判断材料/其の弐
人はみんな、彼のことをさして目立たない人間だ――と言う。
らしい。
それもある意味一理あるかもしれない。
下校時。
階段を降り、昇降口で靴を履き替え、すっかり葉桜になった桜並木道に出ると、……おや、あれに見ゆるは噂の『彼』……。そっちは校門じゃないわよ、駐車場よ。駐車場にいったい何用が?
――!
消えた。いきなり姿が見えなくなったわどーいうことーっ!?
……というようにすいすい消えるので、存在感ないのも頷けるのですが……さすがに今のは私もびっくりっていうかそれ以前の問題いったいどこへ消えたー!?
私だけ? 『彼』が変人じゃないかと疑うのは私だけ?
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