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彼に対する第一次接近遭遇
『彼』――筧束沙――は、はっきり言って暗いぞ存在ないぞ景色と同化して置物みたいだぞ、ってなふうに三拍子揃ったいわゆる冴えない君である。
……だったのだけれど。
はてさて、いつから私、「瀬生綾」は、筧を見てしまうようになったのやら……。
と、まあ、家路をたどる生徒達の波に逆らいながらそんなことを考えていたら。
まただよあれに見ゆるは噂の『筧』……帰ってきたのか。どこから?
「かけ……っ」
はぅぅっ! なんで呼び止めてんの私! よく最後の一文字を飲み込んだ私!! ノーベル賞なみにエライわっ。
なのに何故気づく筧束沙……!
「どうしたの瀬生さん」
「え、えーとね、うーんと……」
うかつに声なんかかけて私のバカバカ! ノーベル賞なみにおバカだわっ。
困った困ったどうしよう~?
「そ、そういえば。今どこに行ってたの?」
「今って?」
「うん、なんか、駐車場の方に消え……っじゃなくて歩いてったでしょ」
「あぁ、あれ」
何故か感心と驚きの入り混じった顔で苦笑する筧。ずいぶんと器用……。
「誰も見てないと思ったんだけどなぁ。こんなの見つけるのたぶん瀬生さんだけだよね」
……は?
今のはどういう意味かしら。とどのつまり私は野次馬根性が太いということ? 家政婦の適性アリ?
「あれは、えーと少し言いにくいんだけど猫」
「え?」
しまった家政婦に気をとられて聞いてなかった。
「どこかで飼われてたのか、野良なんだけど人懐っこくて。放課後あそこで遊んでやってたら完全に懐かれちゃってさ」
「ね、猫、ですか?」
「そう」
「……ごはんとか、あげてるの?」
「そう」
大真面目に頷く筧。
――ちょっぴり想像してみよう。
放課後、駐車場の隅で愛らしい子猫(たぶん)と優雅に戯れるひとりの男子生徒。
おそらく普段は見せないような優しげな表情を浮かべているであろうその姿……いまどき少女漫画でも絶滅寸前のシチュエイションを演じているのが筧だったら。
似合う……似合い過ぎるくらいさまになるけど……。(そういうルックスしてるのよ)
――微妙に大きく何かが違う。
はまりそうではまらないパズルのピースみたいでもどかしい! そもそも猫が筧に懐くっていうのが信じがたいのよねだってこの人見る限り友達いなさそうだし。
「……瀬生さんって、部活やってた?」
「帰宅部よ」
あっでも友達いないような人に限って小動物に好かれたりするんじゃないかしら。
「ふぅん。じゃ、一緒に帰ろうか」
「うん。……うん?」
――なんですとっ?
思わず石化する私。
今っ今何て言った? 『一緒に帰ろうか』? そして私は是と……。
早くも門の近くまで歩いている筧が私に言う。
「どうしたの? 早く来なよ」
教訓、油断は本当に大敵である。
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