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続・彼に対する第一次接近遭遇
夕焼けが赤いのは確か太陽光線のなかで赤外線が一番長いからだとかなんとか。今の私にはどうでもいいことでした。どうでもいいことだから頭を占拠するのよ。とにかく夕焼けがキレイ。
私としては、夕焼けって大自然の絶景に数えてもいいのだけど、その絶景も隣を歩くのが噂の『彼』だとなるとなにやら異世界へのエントランスホールに見えてくるから不思議です。さぁあの角を曲がればそこはめくるめく幻想の国! だったらいいのに。私の白ウサギはどこへ?
おかしい。
何の因果で私は筧と帰らねばならなくなったのでしょうか。
いや、落ち着け私。まずはさっきからずっと続いているこの沈黙をどうにかしよう。
話題、話題。
「あの、筧……くん?」
「なに?」
「いつも学校でひとりだよね」
あぁ私の馬鹿なにゆえこの話題なの! デリカシーなさすぎって思われてる、思われてるわーそんな気配を感じるわー。
「あぁ、うん」
しかしあっさりと彼は頷いた。あのいまいちよく掴めない苦笑いの表情で。
「友達いないの?」
なんてこと訊くんだ私。学習能力仕事して。数秒前思い出して。
「いるよ」
「え!? ほんとに?」
見たことないぞ!
「学校の外に」
それなら見たことないはずだ。
「学校には、いないの?」
「あぁ、うん、……忘れてた」
オイ。
私があからさまに呆れ果てた顔をしたら、筧は少しバツが悪そうに咳払いなんかして、
「俺あんまり自分から話しかけるほうじゃないし……流行とかそういうの疎いしさ。でもその、忘れてたのは、別にそれでも毎日飽きないで過ごしてたから、かな、うん」
そういうものなの? 果てしなく疑問だけどそれより疑問なのは、筧が何故か笑いをこらえていること。
……はて?
「何で飽きないの?」
「えっ? あ、えぇと……猫、だよ。今日はなにして遊ぼうかなとか、ごはんは何あげようかとか、なんか、考えてて楽しい。うち、家族にアレルギーのやつがいて飼えないから」
「そうなんだ」
ははーんさては猫好きね? うんうん、ネコチャンは全世界の癒しよ。きっと優しく扱うんだろうな。
でもね、でもね。
猫のことで頭がいっぱいって……一見すごく平和そうに見えてその実かなり寂しくないかしら? いやそうだろう。
「寂しすぎね」
はっ。
つい声に出してしまった……。ははーんさては私本当に馬鹿ね? 海馬仕事して。今のはマズイ、悪手すぎ、私は謝るべき、って思ったけど当の筧が笑ってるのはどうして? しかもかなりバカ笑いしてますが?
「あっはっは……。瀬生さんて、面白いひとだよね」
「そんなこと初めて言われた」
「あぁ、そうなの?」
もちろんですとも!
筧の笑いのツボはきっと常人とはかけ離れたところにあるに違いない。
だって私何がそんなに可笑しいのか全然判らない!
「そういえば、瀬生さん」
「なによ?」
ていうかいつまでしつこく笑ってるんだ筧束沙。
「猫は、みんなに内緒ね」
…………。
それじゃまた明日、と言って去っていく筧の後ろ姿を私は為す術もなく見送っていた。いったいどうしろというの。
……あの微笑みはずるいよ、筧。
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