クライマックス

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 10日間、学校でお昼から夕方まで待っては会えなくて、家に帰ってから明け方まで泣いた。  桜が満開になった。 「祥子、病院に行こう」  お昼近くなって部屋から出てきた私に出かける準備ができあがっているお母さんが言った、病院という言葉に心が踊った。 「誰の?」  直人君のお見舞いを期待した。 「祥子が診てもらうの、直人君が生きてるって思い込んでるでしょ。祥子の心の病気を治さなきゃいけないの」 「お母さん、そのセリフは違うわ」  私は急に自分の体温が下がった感覚がして、感情のない声と表情でお母さんにダメ出しをした。 「え?」  お母さんは私の返事の解釈に困っていた。私が狂い切ったと絶望したかな。でも今はそこに思いやってる暇はない。お母さんはシナリオにないセリフを言ってしまったのだから。 「いい?お母さん、私のシナリオの説明するからよく聞いてね。2月14日直人君は、飲酒運転の車にはねられて即死だったわ。両想いになったその日に彼氏が死んだなんて、そんな最悪の悲劇を受け入れなきゃいけないなんて、どういう精神状態になるかわかる?なのに、周りは死んだことは受け入れろだの、葬式に行けだのと、よく言えたわね!冗談じゃないわ!それこそ本当の病気になるわよ。」 私はそこまで一気に吐いて、いつもと同じ動線でドリップパックのコーヒーを淹れた。6グラムのスティックシュガーを入れる時は自分はまだ子どもだと自嘲する習慣がある。  ダイニングテーブルに一口飲んだコーヒーカップを置いて座って、続きを話すと知らせる。お母さんも前に座って娘の次のセリフを待っている。 「その日の夜は大変だったわ。急いでシナリオを書かないと、まだ受け止めちゃいけない現実がすぐそばまで迫ってきてたからね。少しずつ、直人君との別れに慣れていく方法しか思いつかなかった。病気かもしれない、入院してるかもしれない、そして助からないかもしれない……って時間をかけて自分に染み込ませる方法でやっていくしかなかった。そのためには、直人君の家も電話も知らないことに設定したし、周りの現実の言葉はありえない噂話や嫌がらせとして扱った」  私は椅子にもたれて視線を上に向けて、これまで演じた日々を思い起こして大きく深呼吸をした。 「それでね、桜が満開になったらクライマックスの場面って決めてたの。いよいよ明日、直人君の家に行ってお別れしてくる。それで第一幕を下ろす。そういうシナリオだから、ごめんね、さっきのお母さんのセリフは却下。使えないわ」  お母さんが急に下を向いて泣き出した。何度も頷きながら「却下されて良かった」と言った。  お母さんには心配かけすぎて悪かったと思ったけど、ここで私が泣く設定はないので我慢した。
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