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「おい、祥子。起きろよ」
眠っている私のベッドの上で、私の後頭部を突いて起こしたのは直人君だった。
「直人君……生きてたの?」
私は驚きすぎて心臓が止まりそうになったが、ここで死ぬもんかという気持ちも込めて起き上がった。
「いや、悔しいけど死んだんだ」
「なんだ……がっかり。会いに来てくれるくらいなら、生き返ったってニュース持ってきてよ」
私は、お土産をもらえなかった感じのふくれっ面を見せた。
「そんな無茶言うなよ。あの世の入り口に立ってるエラソーなおじさんに、祥子に挨拶させてほしいって、すご~く頼み込んで許可もらってきたんだぞ。しかも3分とかいいやがるから、賄賂まで渡して30分にしてもらったんだぞ」
「賄賂って……」
「祥子にもらったチョコ半分握らせた」
私はあの世のエラソーなおじさんの手の中でチョコが溶けているのを想像して笑った。けど、次の瞬間、直人君との別れは絶対に嫌だって思ったら涙が急に溢れてきた。
「やっぱり、嫌だ!」
大きな声で叫んでいた。
「ごめんな、突然に死んで。チョコレートありがとうな」
直人君がギュって抱きしめてくれた。胸も腕もあたたかくて驚いた。
「ごめんね。お葬式行かなくて」
「祥子が来なくてホッとしたんだ。怒って殴られそうだったから」
「私も、直人君を殴って起きろって言いそうだったから行けなかった。でもねすっごく考えたんだよ。どうやって直人君が死んだことを受け入れたらいいのか、シナリオ作って今日まで頑張ったんだよ。でも……やっぱりヤダ!行かないで消えないで……おじさんにお願いしてみてよ……」
泣けて言葉にならないけど、言葉を止めてる時間の余裕はない。
「俺だって必死に頼んだよ……でも死んだあとは変えられないって……でも、おじさんが教えてくれたんだ、俺はまたすぐに生まれ変わって、縁がある人とまた出会えるんだって……だから、俺たちは何度生まれ変わっても、何度でも会えるんだ……それを楽しみにしていかないか。なっ?」
直人君も涙で言葉が詰まっている。直人君が私の背中を撫でて励まそうとしている。これ以上死んでしまった直人君にわがままは言えなかった。私は直人君の胸におでこを擦りつけて、何度も頷いて泣くしかなかった。
「明日で終わりのシナリオ、俺変えちまったな。ごめんな」
直人君が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「いいの、お線香あげて決着つけるみたいな地味なラストしか思いつかなくて不満だったから……こんなにドラマティックで幸せなクライマックスにしてくれてありがとう……すごく嬉しい」
私は止まらない涙は気にせず、直人君に最高の笑顔で見送ろうと決めた。
「喜んでくれて安心した。ありがとうな……祥子。また会おうな」
直人君の大きな優しい手が、別れを惜しんで頭や頬や腕を撫でていく。
「うん、またね」
消えていく直人君の顔が笑っていたのか、泣いていたのか涙で見えなかった。
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