クライマックス

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 直人君が死んだという噂を初めて聞いたのはバレンタインデーの翌日、いわゆる昨日だった。  私がそんな悪質な嫌がらせに引っかかるはずもないのに。  直人君とは10ヶ月前の高校の入学式で初めて会った。同じクラスになって、名前が岩崎祥子と岩見直人で五十音順が隣だから、座席が前後で並ぶというパターンの出会いだ。  直人君はサッカー部に所属していた。運動嫌いの私は、いつまでも走っていられる直人君の体力にいつも呆れていた。 「体育の時間以外にも運動をしようという気になれるのがすごいね」 「祥子こそよく人前で歌えるよな。俺、音痴だから絶対できない」  直人君はそう言って、コーラス部の私に呆れていたが、互いにリスペクトしているつもりではあった。 席替えがないので、私の後ろにはいつも直人君が座っていて、話したいことがあると、私は後頭部を直人君に突かれて、私は居眠りしている直人君の頭頂部を突くのが習慣になっていた。 そして一昨日の授業が終わった瞬間、いつものように後ろから後頭部をツンツンされた。 「なに?」 「何って、今日は俺に用はないのか?」 「私って勘がいいからさ、もしかしてチョコが欲しいって要求してる?」 「勘がいいなら、さっさとくれよ」 「ないよ、そもそもチョコなんて買ってないし」 「作ってもないのか?」 「誰のために?」 「俺にだよ」 (しまった……直人君、この日を重要視してたのか。でも義理と本命どっちのチョコが欲しいんだろ?) 「祥子、これまで楽しくコミュニケーションを図ってきたのに、なんて残酷なシチュエーションなんだ……」 「だって恥ずかしかったんだもん……」 「そんな根性無しのヤツのために、今日という日をお菓子メーカーが考案したんだろが」 「義理と義理じゃないのどっちがいいの?」 「義理なんか持ってきたら怒る」 「先に言っといてくれたらいいのに」 「そんな根性あったら今日まで待ってねえよ。部活あるからここ入れといてくれよ」 直人君は自分の机の中を指差して教室から出ていった。
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