ドリューの場合――1900年 船の上

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ドリューの場合――1900年 船の上

 海に何か、夢を持ってきたのかと言われれば、そんなことはない。  ドリューにとって、船員は生きるために選んだことだ。特別、海の上に何か探していたものがあっただけでも、夢があったわけではない。  ドリューの父親はある伯爵家の馬丁だった。母は同じ家の料理人で、主人の許しを得て結婚をし、ドリューをはじめ、三男三女の子を得た。裕福ではなかったが、とても幸福な生活をしていた。伯爵閣下は使用人にも心を砕く人物で、子どもたちの誕生日のたびに「閣下からいただいたお下がりだ」と言って、両親はプレゼントを持ってきた。また、伯爵夫人はいつも食べきれないほどのお菓子を作らせては、子供のいる使用人に持たせてくれたし、毎週1回の休みには子供の分まで小遣いをくれていた。  兄弟姉妹の状況が一変したのは、ドリューが学校を卒業するころだ。  心優しい伯爵夫妻が事故で亡くなったのだ。旅先での事故だった。使用人たちは悲しみにくれた。そして、その後、絶望に包まれたのだ。  伯爵位を継いだ吝嗇家の長男は、両親の使用人への態度を快く思っていなかった。金を不要に使っていると信じ込んでいた。  そして、賃金を減らすために、古くからいる使用人たちの多くを別の屋敷に推薦状を書き、移らせた。別の勤め先が見つかった者はよかったが、屋敷を移ることの出来なかった使用人たちは給金を減らされた。当然、使用人の家族へのプレゼントやお小遣い、お土産はなくなった。  ドリューの両親は屋敷に残ることになった使用人だった。ドリューも学校を卒業したら、伯爵家で働く話があったものの、当然のように反故にされた。子供心にも、家計が苦しくなったのは理解できた。  だから、決断したのだ。幼い弟や妹のためにも、自分が家を出て働くのだと。
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