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青年
次の意識は鼻腔からだった。真っ暗な世界で静かに心臓を動かしていると、湿った空気の中に微かに土の匂いを見つける。
僕は目を開けた。畳越しに見える空はまばゆいが少し曇っている。眠たさは既に雲散霧消して体は軽かった。心の赴くまま靴を引っ掛けて外に出る。目の前は寂れた街だが、少し歩くと海が見えてくるのだ。
僕が歩き始めると、待っていたように1つ目の水滴が落ちてきた。
僕は笑った。今のは君でしょう。雨がよく似合う、あなた。
晴れ男だったはずの僕に、近頃はよく雨が注ぐようになった。
僕が探しているのか、君が僕を慰めてくれているのか。
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