眠り

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眠り

今年は雨が多かった。 実家に戻ってきた次の日は、狙ったように彼の三回忌だった。僕は昔のよしみで母に回ってくるその知らせを聞いたが、今更参りに行こうという気は起こらず、ただこの家で一番風の通る客間に来て窓を開け放して横たわった。 良くも悪くも独特の匂いが鼻をつく。この街の匂いだ。離れていれば忘れた気がするけれど、戻ってくれば昨日のように記憶を掘り起こしてしまう。息苦しさを感じていた小さな体、飽きるほど通った街並み、陽炎のようなあの日の情景も。開け放した窓から耳をかき回す様な蝉の声が聞こえている。日差しは容赦無く肌を焼く。もう9月だというのに、秋の気配はない。僕は額に浮かんだ汗を拭った。 滴ろうとする水は痒い。手近を見渡すが、汗を拭えそうなものは見当たらなかった。 僕は畳に寝転んでいる。 身体中を蝕む怠さに起き上がる気力はなく、諦めて再び目を閉じる。聴覚を弄ばれながら、そのままうとうとと微睡んだ。
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