鏡の中の友達

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 憂鬱な朝だ。  陽気な朝の喜びを告げる小鳥の囀りも、分厚い遮光カーテンの隙間から差し込む鬱陶しい朝日も、何もかもが私を不愉快にさせる。  鍵をかけた扉の向こうからは、母の心配そうなか細い声が聞こえてくる。  おはよう。ご飯は食べられそう?  聞きなれたその優しい言葉に、私は素直に答えることができなかった。沈んだ気分のせいもあるが、何より喉が渇ききっていて声が出なかった。  心の中で母に申し訳なく思いながら、私は枕元に放ってあったスマホの画面を一瞥する。今日も通知が大量にあった。  一番目に留まるのは、唯一の親友からの朝の挨拶と励ましのメッセージ。 『おはよう。体調はどう?元気が出たらいつでもおいでね』  今の私からすれば、そのメッセージは脅迫のように感じられた。特に、親友と同じように送ってこられるクラスメイトからのメッセージは。  これが全て偽りのメッセージであることは知っている。私を気遣うなんて、あいつ等がするはずもない。私が学校に来なくなった途端、掌を返したように心配の言葉をかけるだなんて馬鹿げてる。  あの子たちは、私を避けて陰口を散々垂れていたのに。おそらく、先生か誰かに心配してるとメッセージを送れとでも言われたのだろう。  クラスメイトからのメッセージをそのままゴミ箱へと放り投げて、私はスマホをベッドに再び沈めた。のそりと起き上がって、机上に用意しておいた着替えに手を伸ばす。それを無気力に引っ張って、姿見の前に立った。  薄暗い部屋の中で死んだ目をする私がそこには映っている。  ――はずだった。  そこに映っていたのは、だった。
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