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第2話 すげえ世界観
墓場でふらふらしているうちに(本当は爺さん婆さん達の自己紹介祭りだったけど全然覚えれなかったから何もなかったことに)夜になってしまった。
「よし!歓迎会やるか!」
そう言い出したのは又吉爺さんだった(さすがに覚えてた)。
「あんたは酒飲みたいだけでしょ!」
という婆さんの鋭いツッコミが入る。
そうだそうだと思っていると、爺さん達が「まあいいじゃねえか」と言いながら手から酒の瓶を出した。もちろん中身もたっぷり。
大事だからもう一度
“手から酒の瓶を出した”
「ええ!?は!?どっから!?」
「おおそうか、まだ教えてなかったな」
「いやまあ名前以外なんも教えられてないけど...ってそうじゃなくて!どうやったのそれ!?え!?マジック?」
「違う違う、そうだな...なんでもいいから頭の中に思い浮かべてみろ ま、こればっかりは感覚的なもんだからなんとも言えねえがな」
そう言われて、お茶を頭の中に思い浮かべて手を見ているとパッとペットボトル入りのお茶が出てきた。
「うおっ!?マジだ!」
「...っていうかお茶って!渋いな!」
笑いが起こる。すでに酔っているようなテンションだけど大丈夫か?ていうか渋いって言われたって...喉乾いてたし水よりいいと思って出したんだけどなあ...
「ま、そういうことだ ほんとになんでも出てくるぞ」
「...すげえな幽霊...」
「それじゃあ始めるか!歓迎会!」
当然のことながら大人の言う“歓迎会”は“飲み会“に自動で変換される。
結局、酔っぱらった爺さん達を介抱するのは俺の役割になる。
ちなみに婆さん達は酒は飲んだものの誰もふらふらになんてなっていない。強い。
「はぁぁ...ほら、又吉爺さん!起きてください!そこ一応隣の人の墓だから!」
「ああん!?知ったこっちゃねえ!俺は...俺はなあ......」
なんかよく分かんないけどまた寝たし。
「ちょっと!せめて自分の墓に帰ってください!」
「ああ、徹ちゃんいいよ そのままにしときな」
そう声を掛けてきたのは又吉爺さんの奥さんだった。
「すっごい寝相ですけど...?」
「いいんだよ 体が痛くなるわけでもなし」
体がVの字になってても痛くならないのか...。
「そうだ徹ちゃん」
「はい?」
「今からなら自分の葬式、見に行けると思うけど...行くかい?」
「え...間に合うんですか?」
自分の葬式を自分で見るって...すげえ世界観だなここ。
「間に合う間に合う まあ、場所は分からないけどねえ まあ葬儀場はしごすれば見つかるから、行くなら行っといで」
「うーん...」
悩んでいるとさっきまで寝ていた又吉爺さんが体を起こして、頭をふらふらさせながら、
「行っとけ行っとけ 葬式終わったら墓に誰も来ないなんてこと、ざらだからな 悲しいもんだぞ...」
と言って、また寝た。
「...酔っぱらってはいるけど、言ってることはもっともだよ」
「...考えときます」
そうとだけ言って、また別の爺さんの介抱に向かった。
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