声にはしない

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決まってしまえば話は早くて、回り道のコースをナビにセットする。最後はコンビニで時間調整すれば、なんとかなるはず。 行きのような無言の空間に耐えきれず、ラジオをかける。BGMとしてよかったのは1時間程。きわどい恋愛トークが盛り上がり初めて、雰囲気はさらにひどくなってしまった。 「ごめん、すぐ切る」 信号待ちまでの数分間、耐えていた息を吐き出す。セーフ、いや、アウトだな。 カシャ 助手席から物音がしたのは、今日初めてかもしれない。スマホを窓に向けていた。あ、空が赤い。 「女子高生だな」 こちらに振り向いた。驚いたように開かれた瞳と、目が合う。 そういう自分はおじさんだ。 「この先にいいとこあるから。ちょっと待ってて」 車を駐めたのは、人気のない小橋。数分くらいなら、迷惑にはならないだろう。 「どうぞ」 彼女は身ひとつで車を降りて、夕日に向かって伸びをした。腕が高く伸びるのを見て、長い間座ったままでいたことを思い出す。 人通りがないのを確認して、自分も車を降りる。 「ハルさんは、私のこと、知ってるんですよね」 不意打ちだった。 「誰に聞いても、小さい頃からのまんまだって言われるんです」 目の前にいるのは、好奇心もちの子供でも、悲劇のヒロインでもない。 「ハルさんは、どう思いますか」 何度もシミュレーションされた問いかけだった。迷いのない声と瞳を前に、正直でいるしか選択肢はない。 「リョウはリョウだよ。それはずっと変わらない」 久しぶりに呼んではみたものの、我ながら当たり障りのない答えを選んだ。 「うん」 しかし彼女は、大きく頷いた。口元に弧を描いて。満足、そう捉えていいのだろうか。 「なあ、あれデートぉ?」 小学生らしき自転車の集団が、にぎやかに走って行く。 「そろそろ帰ろうか」 夕食、なんだと思う? 返事は、さあ?だけで十分だった。 「リョウ?」 なのに、ここにきて涙を見せるのは、ずるい。首を横に振るのは、大丈夫ということなのか。  「見てろよ、キスするぞ」 いないはずの少年の声が、鼓膜を刺激する。 キスはしない。気の利いた言葉も掛けない。それでも、この気持ちは届いて欲しい。  「あの子、ハルくんのこと好きだったから」 俺は知らない。彼女も知らない。だから、このハグに特別な意味はない。 「リョウ」 見下ろすことはしなかった。ギリギリの判断だった。 「帰るぞ」 車に乗り込んで、もう1度ラジオをかける。流れるラブソングに、頭が毒されそうだ。
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