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再会
「ハルくん、お帰り」
「うおっ」
帰ってきたところで、母の車がないのはおかしいと思っていたのだ。ただ、玄関に入ったところでこの人に迎えられるとは。
「久しぶり」
「はあ」
ふふふふ、と上品な笑い方は変わらない。けれど、記憶にあるよりずっと疲れているように見える。
なるほど、と1週間前の電話を思い出す。母からだった。
「いい?クビになってでも休みを取って帰ってきなさい。母さんの人生がかかってるんだから」
なんとか職を失うことなく休みを取れたものの、そんな大事なことを息子に押しつけるのはよくないと思う。本当に。
「ハルくんにお願いがあるって言ったら、石川がすごく張り切っちゃって。今は買い物に出てるんだけど」
まあ、上がって。
ほぼ2年間、会わないどころか話題にさえできなかった人と、何の違和感もなく接している。そう感じているのは、自分だけかもしれない。
「あの、お願いって」
母に頼まれたのは、ETCカードを忘れないことと車内を掃除しておくこと。
「C女子大学の学園祭に涼子を連れて行って欲しいの。ハルくんA大だったから、わかるかなって」
どちらも隣県の大学だ。C女の学園祭は、出会いを求めて悪友と練り歩いたこともある。
「それにあの子、ハルくんのこと好きだったから」
「?」
話を掴みきる前に、リビングのドアが開いた。誰かは訊かなかった。髪を短くして、珍しく流行のワンピースを着こなしているが、何て声を掛けよう。
「初めまして、涼子です」
?
「遥輝です」
元気そうでよかった。
「じゃあ、ハルさんで」
それは昔近所で有名だったバアさん猫だろ。
鼻で笑うと、目の前のおばさんが申し訳なさそうに手を合わせていた。血の気が引いていくのを感じた。
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