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声にはしない
遅めの昼食は、ファミレスに寄った。ここまでまっすぐ来たものの、帰宅には随分早い。夕食づくりに取りかかる前に帰宅してしまうのは、母達が気まずいだろう。
「この後どこか、寄りたいとこある?」
「いえ、特に」
即答。唇についたパスタのクリームを紙ナプキンで拭って、うつむいた。
さあ、どうしよう。
「やったあ、パフェだ」
隣のテーブルの男の子は、何歳くらいなんだろう。まあ、いいか。
「...あの」
「ん?」
恐る恐る、声を掛けられた。今までも、今日の中でも、彼女にしては珍しい。
「食べたいのあったら、頼んでいいよ」
「...いえ」
違ったらしい。そのくせ、視線は何かを言いたげに訴えてくる。こちらがストレートに尋ねても、素直に答えてくれないだろうに。
ここでひとつ、深呼吸。落ち着け、俺。
「まだ時間あるし、下道通って高速代浮かせてもいい?」
「...どうぞ」
絞り出した声と、溢れそうだった瞳のそれは、何の感情なんだろう。
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