最果ての国

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 *** 「お父さんおかえりなさいー!」 「おかえりー!」  僕が家に帰ると、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら娘二人が飛び出してくる。  小学生三年生の繭子と、小学一年生の直子。きっと今日も外を冒険してきたのだろう、麦わら帽子を被り、虫籠のようなものを下げている。いかにも、さっき帰ってきたばっかりと言いたげな様子だ。 「二人とも、今日はどのへんを冒険してきたんだい?何か捕まえたの?」  僕が尋ねると二人は眼をキラキラさせて、“聞いて聞いて!”と飛びついてきた。 「でっかいカブトムシがいたの!裏の庭で!蝉もいっぱい!」 「そうそう、でも直子が大声出すから、カブトムシは逃げちゃうし、蝉もだんまりしちゃったんだよねー」 「あれはあたしのせいじゃにもん!お姉ちゃんだっておっきな声出してた!あと何にもないところで転んで泥だらけになって、さっき慌てて洗ってたもんー」 「ちょっと直子!それ内緒だって言ったのに!」 「知らないもん、あたし知らないもんー」 「はいはい」  仲良し姉妹は、それだけに喧嘩の頻度も多い。そのまま睨み合いを始めそうになる彼女達に苦笑しつつ、僕は告げた。 「とりあえず、虫籠は一端縁側に置いてきて。手はちゃんと洗ったかい?洗ったら、まずはいつもの仏壇にご挨拶。お父さんも一緒に行くからね」  基本は素直な二人だ。はーい、と手を上げてとたとたと奥へと走って行く。可愛い後ろ姿を見ながら、僕はキリキリと胸が痛むのを感じていた。  僕は大事なことを、ずっと隠し続けている。  それが誰にとっても望まれない真実だからと、そう自分を誤魔化しながら。
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