猫猫パラダイス

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いつもの帰り道。 どこからともなく、1匹の猫が現れた。 長い尻尾が立派な黒い猫。 そっと後をつけてみようか。 ぼくは猫に気付かれないように、 一定の距離を保ちながらその猫の後をつけた。 右に曲がり左に曲がりまた右に曲がる。 全く、この猫は曲がるのが好きだな。 おっと、まだ右?いやいや左?と思いきや、 いきなり立ち止まって、ぼくを見た。 まずい、気付かれたか! 逃げるのか、と思いきやまた前をむいて今度は右にも左にも曲がらずに真っ直ぐに進んだ。 あれ、でもこの道はどちらかに曲がらないと行き止まりだ。 どうする、黒い猫よ。 やがて、行き止まりの壁の前。 いくら猫でもあの塀に登るには高すぎる。 しばし立ち止まる猫。 ぼくは、さっきみたいに後ろを振り向かれてもいいように手前の曲がり角から様子を伺った。 やはり戻るのか? と思いきやなんと吸い込まれるように壁の中に消えていった。 ぼくは寝ぼけているのか。 目を何度もこすり頬をつねる。 確かにさっきまで猫はいた。 でも今はいない。 あの壁に何か仕掛けがあるのか? ぼくは壁の前まで走って行った。 何の変哲もないコンクリートの冷たい壁。 叩いてもどこにも通り抜けるような扉はない。 あの猫はどこに行ったんだ。 辺りはいつの間にか暗くなり、ぼくは仕方なく引き返すことにした。 いつもの見慣れた街並みなのに、あの猫のおかげで違う風景に見える。 ようやく家の近くに来たとこで、ぼくの目の前に1匹の猫を見つけた。 街頭の明かりで定かではないが、さっき後をつけた黒い猫だろうか? 今度は後をつけるのはやめて、さっと近づいてみた。 逃げられるかな。と思いきやこちらをじっと見ながら待っていた。 「さっきの猫さんですか?」 何て日本語通じるわけないか? 「そうだよ」 え?通じてる? 「さっきぼくの後をつけてたでしょ?」 「バレてたか」 「でも壁の前で消えたよね」 「あれは消えてない。通り抜けたんだよ」 「ぼくにもできるかな」 「できる。ちょっとコツがいるけど」 「教えて欲しいな」ぼくは猫に聞いた。 「じゃぁ、今日はもう遅いから明日」 「では、明日あの壁に集合だ!」 「了解!」 猫と約束してしまった。 あれは本当に猫だったのか? 色々な疑問が渦巻くがとりあえずあの猫の言葉を信じることにした。 次の日、ぼくはあの壁の前で猫を待っていた。 昨日と大体同じ時間。 そろそろやってくるはず。 30分が経過した。 やはり昨日の約束はでたらめか。 信じたぼくがバカだった。 辺りは暗くなり始めたからもう帰ろう。 そう思った矢先、目の前に1匹の猫が現れた。 だけどその猫は昨日とは違う猫だった。 何で違うかというと、その猫は色が真っ白だった。 昨日の猫の仲間なのかな。 「あのう、昨日の黒い猫のお友達かい?」 ぼくは白い猫に話しかけた。 白い猫はぼくをちらりと見て、目の前から逃げてしまった。 そうだよな。普通は猫ってこうだよな。 昨日の猫が普通じゃなかったんだな。 でもさっきの白い猫なんでわざわざぼくの前にあわれたんだろう。 何か言いたかったかのか。 もう一度あの壁の前に立ってみた。 冷たいコンクリートの壁を触ってみる。 あれ何かそこだけ柔らかい。まるで猫を触っているような感覚。 コンクリートの壁はいつの間にかなくなって、目の間には昨日見た黒い猫がいた。 「約束守らなくてごめんなさい。急に行けなくなってしまって。でも変わりに白い猫が来なかった?」 「来たよ。でも、話しかけたら逃げられた」 「彼女は恥ずかしがり屋だからな。でも勘の鋭い君ならこの壁をもう一度触ってくれると思ったんだ」 「えっとここは一体どこなんだい?」 「言うまでもなく壁を通り抜けた先、猫猫パラダイスなのさ。今日から君も立派な猫ですよ」 「えー、ぼく猫になってしまったのか?よくわからんけど、最近嫌なことばかりだからたまにはのんびり猫になってみるのも悪くないか」 こうして変な猫に出会ったぼくは、壁を抜けて本当の猫になってしまったのであった。 これから楽しい猫猫ライフが始まるはずだ。
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