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「じゃあ……今日出ていくから。荷物はまた取りに来る」
握ってきた手を康太が振りほどいた。彼女の手に残ったのは、部屋の鍵だ。
「じゃあ」
バタンと音を立てて、ドアが閉まった。
有加は、呆然と彼の温もりが残る手のひらを見つめた。そこに次々と、大粒の雨が降り注ぐ。
その後の記憶は、あまりない。
食事をしたのかどうか。風呂に入ったのか。
有加は呆然と一夜を過ごした。いつの間にか太陽が沈んで再び昇ってきたのに、ようやく気付くと、
「もう一度話をしたい……」
とボソリと言った後、スマホを手に取り、康太に連絡を取った。
返事が来るのか……それ以前に、既にブロックされているのかもしれない。それでも、どうしても最後に話したくてメッセージアプリで送る。
返事はすぐ戻ってきた。
想い出の場所。時間はお互いの都合のいい夕方に決まった。もう彼の気持ちは変わらないかも知れない。
それでも、もしかしてという思いと、話したいという気持ちが溢れてきて止まらない。
「私だって言いたいことがある……!」
有加は、最高のおしゃれと化粧を決めて、待ち合わせ場所に向かった。
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