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リハーサル
「別れたい」
「えっ?」
発せられた康太の言葉の刀が、有加の心に突き刺さる。開いた穴から、どくどくと血が流れていくような錯覚を覚えた。
「なんで?」
すでに彼女の頬を濡らすものがあった。それを拭うのも忘れ、突っ立ったまま彼に問う。
「まあ、色々。一つ一つ話そうか?」
たくさんあるのか……そんなこと今まで一言も発しなかったのに。言ってくれたら、直したのに。
有加は叫びたくなるのを我慢した。問い詰めたくなる気持ちを抑え、冷静に接しようと努める。
「うん、お願い……」
やっと蚊の鳴くような声を発した彼女を見て、康太は一つ一つ話し始める。
「まず、一つ目。一人の時間が欲しかった。一緒にいる時間は俺も大切だと思うけど、休日はいつも同じ所にいないと、有加は不機嫌になっただろ? それが耐えられなかった」
「趣味を持つようにする……」
「何度も勧めたけど、結局変わらなかったろ」
「そうだけど、今度こそ……」
「もう遅い」
彼はいつになく、冷酷に有加の言葉を遮って言った。
「二つ目、束縛。俺一人で出かけたとしても、少し連絡をしないと不機嫌になった。それを収めるのに毎回苦労したよ。正直息苦しい」
「えっ。そんなに大変だった?」
「ああ。もう限界だよ。全然気付かなかったんだな」
確かに気付かなかった。何気なく連絡を求めていたけど、そんな風に思っていたなんて。
有加は自分のことしか考えてなかったことを後悔する。
「三つ目。掃除ができないこと。それ以外はすごく良かったし、二人で上手く分担できていたと思う。でも、掃除はいつも俺がやっていた」
「……」
有加は、まったく反論できないことにショックを受けた。自らの過去の行いが憎くなってくる。
「じゃあ、掃除頑張るから……」
「もう信用できない」
感情の籠もらない言葉が有加を責め立てた。
しかし、次の瞬間。康太は彼女の手を取り握った。
有加は、もしかしたら気が変わったのかなと、あり得ないと思いつつも、期待を馳せる。
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