一章

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「隆さん困られないでよぉ、パズル仕上げないとデートしないからぁ」  そんな戯言を信じて躍起になっている雄一を本当に足蹴にした。 「雄一、本当に雫と浮気したら承知しないから」  見上げた雄一は隆弘の足の甲に平伏すようにキスを落とした。 「するわけないじゃん。それに雫ちゃんは隆弘にメロメロだし。そんな雫ちゃんを揶揄うのが楽しいんだよ。俺は隆弘だけ。一生一緒にいるって誓ったろ?」  一緒にいるってことはどんな形でいようと思っているのか知れたものじゃないと隆弘は思った。この先、雄一が本気になる奴が現れるのではないかと隆弘は心のどこかに不安を感じている。  職場も住まいも一緒。プライベートは閉店後と休日のみだ。  お互いプライベートは自由に過ごし干渉しない。それでも深夜遅く帰る雄一の身体に見知らぬ香水が残っていることに激怒することは最近ではなくなった。  気をつけて付けないようにしているのか、そんな情事はなくなったのか。  それでも外泊せず帰ってくる雄一に安堵し、少しは信用していた。 「俺も風呂入って帳簿つけるわ」 足元から離れていった手に、寂しさを感じながら隆弘は風呂場に向かった。  翌日、早くから身支度を整え、まだベッドの中の隆弘の額にキスを落とす。 「こんな早くから出かけんの?」  そう聞けば少し頬を赤らめ鼻歌でも歌い出しそうな様子で見下ろす。 「雫ちゃんとデートしてくる。パズル仕上げたからさ」  お気に入りの香水を身に纏い、最近ハマっているブランドのジャケットを羽織った。 「浮気は許さねーから」 「浮気なんてしない。隆弘に逃げられたら、俺無職になるし」 浮気をしない理由が職を失うことだという雄一に溜息を吐く。 「行ってくるわ」  後ろ姿を見送りながら、付き合い始めた頃を思い出した。こんな風に隆弘を置いて出かけることは多くあった。友達の多い雄一は色んな趣味を持っている。夏はダイビングにサーフィン、冬は雪山にスノボー三昧。そこには沢山の友達がいて、どれを隠れ蓑にしているのかはわからない。女も男にも雄一はよくモテる。そんな雄一の友達に紹介されたことは一度もなかった。
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