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♰55 シスター・アイリーンと堀田幹夫
「……ここじゃ」
地下室の扉の前に着いた途端、シスター・アイリーンは顔をしかめた。堀田老人は鼻をつまんだ。
「これはまた随分ときつい瘴気じゃのう。”臭い”が扉から漏れとるわい」
堀田老人がシスター・アイリーンの顔を見ると彼女は青ざめて、落ちつきなく手のひらをこすりあわせていた。
「おじょうさん、気分でもわるいのかな?」
「こ、これほどとは……、いけないわ。”臭い”が強すぎる」
堀田老人は、シスター・アイリーンがまごつく様子を気にせず地下室へとつづく扉を開けた。そして、階段を降りはじめた。
「き、危険です! これでは、わたしも正気を保っていることができません」シスター・アイリーンは階段の上から声を大にして言った。
「あいわかった。むりをするでない。おぬしはそこで待っているがよい」堀田老人は階段の下からそう言うと剣先をひっかけて出入り口を覆う布をひき降ろすと、まっ赤な電球が灯っている中に入った。
シスター・アイリーンは、スカプラリオを首にかけた。
「し、神父さま。わたしはあなたを愛しています。ですがきっと、」彼女は手のひらを合わせてこすりあげた。「……わたしは昔の姿になってしまうかもしれません。あなたにお誓い申しあげたことを破ることをどうかお許しください。ですが、」また落ち着きなく手のひらをこすりつけた。「あなたを裏切るようなことはありません! ”純白”がしっかりと! 宿っていますから!」
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