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♰58 シスター・アイリーンと堀田幹夫4
堀田老人が倶利伽羅剣をふりおろした。剣から炎が噴きでて縦に茶色い虫を焼きはらった。それが合図となったかのように茶色い虫は一斉に地下室のなかを飛びまわった。宙を飛ぶ一群が堀田老人の背中にとりついた。いっぺんに老人の背中が一面真っ黒になった。
「吽!」
老人の背から火炎がのぼった。老人の背に群がった茶色い虫は瞬時に焦げて一枚の板っぺらのようになって剥がれおちた。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン」
堀田老人の姿が変化を開始した。老人の姿が明滅を繰りかえし、体躯が異形にかわった。――怒りの表情をした、まさしく、不動明王のお姿があった。
不動明王が倶利伽羅剣を下段に構え、切っ先を篝火のように燃やした。不動明王は躰を回した。宝剣が弧を描いて地下室内を一周し、壁や天井に蠢く不吉の虫どもをつぎつぎと焼いた。
不動明王は剣をおさめると満足気――怒りの顔に変化はなく、微妙なニュアンスで角度によっては笑っているようにみえる――な顔になった。が、正面の壁から、頭上の天井から雨漏りがにじむように再び茶色い虫たちが出現し、にわかに壁面をびっしりと埋めつくした。
「……やれやれ、これは骨がおれるわい」
壁面の茶色い虫たちがそろって翅を動かした。まるで仏を嘲笑っているかのようだった。
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