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♰67 出産
「神父さま……わたし……また悪魔にもどったの?」
真具田麻里亜が肩で息をしている森義矢の胸に顔をうずめた。
「安心しなさい」森義矢が麻里亜を抱きしめ息を吐き、彼女の頭を撫でた。
麻里亜は手の甲で涙を拭った。
「ごめんなさい。こんなことになってしまって。どうか、わたしを祓ってください。しょせんは悪魔です。どうか、ひとおもいにわたしを魔界に追放してください」
「しょうのないひとね……」
森義矢は麻里亜のからだをひきよせた。麻里亜はすがるようにして白い肌の森義矢の裸体にしがみついた。
「いいのよ。もう、だいじょうぶ」森義矢は言った。「あなたに憑りついていた悪魔は退けたわ。もう、あなたを脅かす者はいない。さあ、いらっしゃい。いっしょに教会にもどりましょう」
麻里亜が手で腹を押さえた。悪魔が憑りついていたおかげで膨らんでいた彼女の腹はさきほどとまではいかなかったが、すこしだけポッコリと膨らんでいた。
「だいじょうぶ?」
「ええ、森義矢さま……」
部屋のドアが勢いよく閉まった。空気が逆流したような気配があった。壁や天井からミシミシという音と、室内の空気を切り裂くような硬質の高音が金切り声をあげたように鳴った。ふたりは室内を見まわすと窓ガラスが真っ黒になっていた。
高熱に耐えきれず窓ガラスにひびがはいった。途端に天井一面に火がはしり室内の壁の上部に引火した。
窓ガラスが割れた。ガラスの破片が炸裂し森義矢と麻里亜にふりかかってきた。
外からの火が室内の空気に触れ、勢いを生じさせ、窓枠はまるでマントルピースのように見えていた。
森義矢の頬から血がひと筋流れていた。
「麻里亜こっちに!」
森義矢はこの部屋のドアを蹴破った。しかし、すでにそこにも火の手があった。火は瞬時にドアをとりこんで燃やしはじめた。
「火を放ったのね……あの三人」森義矢のからだに汗玉が浮かんだ。
森義矢はふらついた。体力はほぼ限界に近かった。悪魔との死闘の末、”ひかり”のちからもほとんど残ってはいないようだった。
森義矢がドアの外で燃えさかる火に向かって、掌から”ひかり”を放った。”ひかり”が火を押しよけ、廊下が黄金色の回廊になった。
「あまり長くはもたないでしょう。麻里亜、さきに行きなさい」
麻里亜はうなずき腹を押さえながらヨロヨロと出ていった。森義矢も十字架で磔刑姿のまま絶命している悪魔の姿を一瞥したあと麻里亜のあとを追った。
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