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♰7 三人の来訪者
「――神父さんよぉ」
森義矢が声にふり向くと、男が三人いた。
声をかけてきた男は顔や首、作業服の捲った腕が日焼けのあとで赤かった。島で建設業を営んでいる湯田だった。
そのとなりにいるのは島唯一の診療所の西門。白衣を着ていない医師の姿は一瞬初対面の人物のようにおもえた。
湯田と西門のうしろでひかえめに立っている男がいた。黒のスーツ姿で、上等な黒い靴、ソフトハット(いまどき珍しい)をかぶっている。瀬戸路という名の男だった。半年ほどまえからこの島に住みついている人物で、〈西浦〉の山中の空き別荘――家主は湯田工務店――を借りて住んでいるらしい。職業は不明で得体の知れない人物と島の噂だった。噂では陽気な男ときいていたが、気むずかしそうで、陰気なふうの男にみえていた。
森義矢はこの三人を見て妙な組み合わせだとおもった。
「湯田さん? それにみなさん、どうかされましたか?」
「どうもこうもねえよ」
と、湯田は突っけんどんに言ったが、森義矢は笑顔をかえした。
湯田は表情をゆるめることなく森義矢に挑むような態度でいた。まるで苦情でも訴えにきた島の住人の代表のようだった。ほかのふたりもけっして友好的な態度には見えなかった。
森義矢は顎に手を添え、三人を見まわした。
「……では、なかにどうぞ。告解なら、お一人ずつおききいたしましょう」
三人は首をかしげると、たがいの顔を見合わせた。
「……告解?」
「ひらたく言うなら、懺悔のことです」森義矢は言いなおした。
「懺悔というか相談だ。神父さん」湯田が言った。「あんたに、きいてもらいたい話があるんだ」
西門が森義矢の前に進みでた。そして、かれは中指の腹で眼鏡のブリッジを押しあげた。
「真具田麻里亜のことです」
森義矢の顔がこわばった。
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