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私の一日はいつもジョギングから始まる。自分が設定したコースの半分くらい走ったところで神社の近くの公園で少しだけ休んで、隣接している家の犬を撫でる。その犬はとても人懐っこい、少し変わった耳の垂れ方をした黒い犬だ。私が近付くと、尻尾をぶんぶん振って寄ってくる。
その日も変わらず、私はその犬を撫でて癒されていた。そのあと、また走るのを再開しようとしていたら、一本の電話がかかってきた。
『汐、今大丈夫? 少し頼みがあるんだけど』
そう切り出したのは私の叔父さんだ。年が12くらい離れている。
ここから一ヶ月間、まさかこの頼み事で週末を潰すことになるとは思わなかった。
「タイムカプセル?」
私はそう聞き返す。叔父さんは低い声で『ああ……』と頷いた。
簡単に話を纏めるとこうだ。
叔父さんには昔からの幼馴染みが男女一人ずついる。その二人が結婚することになって、結婚式に招待された。
そこで折角の機会だし三人で地元に遊びに行こうという話になる。
ここでタイムカプセルが出てくる。話題の紆余曲折があって、中学の卒業式の後に埋めたタイムカプセルを掘り返すことになったそうだ。
そのときはタイムカプセルの存在自体を忘れていた叔父さんだけど、後からあることを思い出す。タイムカプセルに叔父さんはラブレターを入れていた。
だから、タイムカプセルをこっそりと掘り返してそれを抜いといて欲しいそうだ。
ついでに、手掛かりは神社の裏山の中の十字の印をつけた木一本だ。
素直な感想を言うと、浮いた話一つないとお祖母ちゃんから嘆かれている叔父さんとは思えない話だ。
「嫌だよ。自分でやりなよ。面倒くさい」
私はそう返す。当然だろう。こんないかにもな面倒ごとを誰がやるか。それに、私みたいな中学生じゃなくて便利屋でも雇えばいいのに。
私の父親は便利屋だ。叔父さんが知らない訳がない。
『それはちょっと、仕事が立て込んでいて帰れないんだ。だから、頼む!』
きっと、今叔父さんは電話越しで頭を下げているのだろう。残念ながら、私は気持ちだけでは動かない。
『こっちも別にタダでは頼むつもりはないぞ』
「へぇ」
何かしら儲けがないと、わくわくしない。
『何でも好きなもの買ってあげるから』
「そういうのは自分で買うから、100万円ちょうだい」
間髪を容れずにそう言うと、叔父さんは黙った。可愛くない姪で悪いけど、これくらいないとやる気が出ない。
『わ、わかった……』
もう少し黙っているかと思ったら、叔父さんは意外にもあっさりと了承した。
「じゃあ、そのうちの50万円で近所の子供を雇って探してみるから」
そうと決まったら、話が早い。一人1万で50人くらい雇おう。残り50万は当然私のものだ。
『それはやめろ』
「何で?」
『手紙の中身見られるかもしれないだろ……』
私に見られるのはいいのだろうか。
「じゃあ、+αで犬の置物」
『は?』
「お祖母ちゃんの家にあるポメラニアンの置物、欲しいな」
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