アナザーワールド

2/4
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 そのまま真っ直ぐ家に帰るわけにもいかず、ショッピングモールや繁華街を行ったり来たりして時間をつぶした。すっかり日も暮れたあとに帰宅。玄関のドアを開けた瞬間、最悪の状況を察知した。土間には僕が履いている靴と同じものが脱いであった。  玄関の物音に気づいたのか、廊下の先にあるダイニングから、妻の美沙が顔を覗かせた。見慣れているはずの僕の顔を見た瞬間、妻の顔から一気に血の気が引き、悲鳴を上げながら後退った。 「おいっ! 美沙っ!」  乱雑に靴を脱ぎ捨て、逃げる妻を追うように廊下を走る。ダイニングのドアを開けると、昼間にオフィスで見た僕がそこにいた。テーブルに並べられた妻の料理。瓶ビールにグラス。そして、テレビのリモコン。極度の興奮に肩で息をする僕のことを一瞥したその目は、薄っすらと笑っていた。その隣には、怯えながらスマートフォンで警察へ電話している妻がいた。  ここにいてはマズい。そう感じた僕は、慌ててダイニングを飛び出し、自宅を後にした。ひたすらに夜道を走る。まるで自分が逃亡犯のように思え、悔しくて涙がこぼれた。  妻なら理解してくれるはずだ。所詮、奴は僕のニセモノ。冷静に説明すれば気づいてくれる。そんな期待を胸に、僕は再び自宅へ戻ることを決意した。夜も更けているため、妻はもう眠っているかもしれない。でも、そんなこと気にしちゃいられない。一秒でも早くこの問題を解決しないと、明日からも生きていけない。  正面玄関にはドアガードがついているため、鍵を持っていたとしても入れない。ただ、勝手口なら手持ちの鍵で家に入れる。そう思い、家の裏手に回る。物音をたてないよう鍵を開け、家に忍び込む。家の主がなぜこんな無様な真似を──と思ったが、今は仕方がない。  一階はすっかり電気が消え、人の気配がなかった。僕は足を忍ばせながら階段を上る。寝室で物音がした。自分の家の自分の寝室に向かうだけなのに、なぜこれほどまでに緊張し、罪悪感を抱くのか。理不尽な状況に腹すら立った。もう気を使うのはやめだ。自分に言い聞かせるように、寝室のドアを開けた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!