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アナザーワールド
それは、ある日の通勤途中。人混みにもまれながら会社に向かっていると、追い抜きざまに誰かが僕に肩をぶつけてきました。その男は振り返ると、不敵な笑みを浮かべたのです。何よりその顔は僕にそっくりでした。いや、顔がそっくりなのではなく、それは紛れもなく僕でした。その日、僕は、僕に出会ったのです。
「おはようございます」
ビルの守衛さんにいつも通り挨拶をすると、なぜか怪訝な顔。理由は特に見当たらず、首を傾げながらオフィスのドアを開ける。いつもと変わらぬオフィスの光景。その中でただひとつ目に飛び込んできた違和感。なぜか僕の席に僕が座っていた。
「あの、ちょっと、どちらさまでしょうか?」
「田中ですけど──」僕は答える。
「田中はもう既に出社しておりまして」
事務の木下さんが戸惑いながら僕の入室を制する。その顔にはさっきの守衛さんと同じく、怪訝な表情が浮かぶ。そりゃ戸惑うだろう。木下さんにとっていつも見慣れた僕のこの顔。でも、一番怪訝な顔をしたいのは僕自身だ。だって、オフィスの中に別の僕がいるんだから。
「木下さん! 僕ですよ、田中ですよ!」
「田中くん──に、確かにそっくりなんだけどねぇ。でも、田中くんはもう来ちゃってるから」
その後、田中さんは事務所の奥に引っ込み、部長たちを連れてきた。やはり部長たちも怪訝な顔をしながら僕に話しかけてきた。最初は丁寧に対応してくれていたけれど、僕が彼らの要求に従わないとわかると、態度を荒げはじめた。ついには強引に僕をビルの外へと追い出した。守衛さんはさっきと同じように、怪訝な表情でそれを見つめていた。
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