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「……ちょっとタバコ買いに行ってくる」
まだ夜も明けない時間に、彼は私にそう言うと、そのまま家を出て行った。
「……タバコ、まだいっぱいあるじゃん」
彼の部屋の中には、難しそうな専門書ばかりがどっさりと積まれたデスクがある。そのデスクの横にある三段ボックスの中に、彼が吸っているタバコのカートンが入っているはずだ。
その部屋は昨日私が掃除したばかりだ。見間違える訳がない。
だけど彼は、『あぁ……カートン、まだあったんだ』……なんて言ってごまかすのだろう。
緑と白のパッケージのそのタバコは、彼が学生の頃から一度も他の銘柄に変える事無く吸い続けているものだ。
「俺はね、一途なんだよ」
彼はいつもそう言って笑う。
確かに、一途だとは思う。
彼は"これ"と決めたものはずっと使い続けるし、常に目の届く所に置いておきたい人だから。
だけど、物だけならわざわざ"一途"だなんて、そんな言い方はしない。
一途なのは、モノだけとは限らない。あなたは私に対しても一途なんだよって。きっと、そう言いたいのだろう。
だけど、どう考えても私に対してあなたが"一途"だなんて思えない。
無自覚だから……やっかいなんだ。
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