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ある土砂降りの日、流石に今日は出てこないだろうと思っていた。
ところがザーザー降りの中、大き過ぎるおとうさんのぶかぶかの長靴を履き、大き過ぎる傘を持ち、おどけるようにふらふらと笑って出てきた。
「しんぶんのおにいしゃーん。」
「雨なのに迎えに来てくれたの?」
「あめのなか、ごくろうしゃまです。」
間違わずに上手に言えて満足したらしく、ますます上機嫌で「ばいばーい。」
と、夕刊を持った腕を揺らして戻っていった。
よっぽどツボに入ったらしく、雨の止んだ翌日もはしゃいで、けたけた笑いながら、ぶかぶかの長靴姿で出てきた。
その次の日は、おかあさんのよそ行きであろうパンプスだ。
神妙な面持ちで転ばないようによたよた歩いてきた。
ケガをしたら大変だと思い、僕は玄関の近くまで走り寄り、
「あらあら、お姫さま。ちゃんとお部屋に入っていなければダメじゃないですか。」
と笑いながら言って夕刊を渡した。
かのんちゃんは、うふふ。と照れ臭そうに笑って戻っていった。
流石に懲りたらしく、大人の履物シリーズはそれで終了した。
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