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「おかあさーん、よっちゃーん。行ってきまーす!」
と中へ声を掛け、停めてあった自転車へ駆け寄った。
目を奪われ、金縛りにあったように釘付けになった僕に気が付くと、ブラウンのビー玉の瞳が訝しげに僕の様子を窺った。サラサラの長い髪をなびかせて。
「こんにちは。何か御用ですか?」
と自転車を引きながらこちらへ向かってきた。
間違いない。
咄嗟に、
「…いや、路地に入っちゃったら道がわからなくなって。駅に行きたいのですが…」
僕はしどろもどろに答えた。
少女はえっ?と声を上げた後、にっこり微笑み、
「塾までまだ時間があるから良かったら途中まで送っていきますよ。」
と、快く申し出た。
手押しで引いた自転車がこぎみよくキィッと鳴った。
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