Fairytale Sunset

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 僕は、「もう、良いよな。十分だろ。」と心の中で呟く。  おもむろに通勤カバンを持った。  中に私物を詰め込む。  携帯電話の電源を落とす。  一呼吸置く。  机の引き出しの奥から、スタンバイ済みの辞表に日付を入れる。  そしてやおら立ち上がり、のっそりと部長の前へ歩み寄る。 「何だ?文句でもあるのか!?」  ただならぬ僕の雰囲気に部長がひるんだ。  僕はわざとらしく驚いて、 「まさか!引き継ぎ書のファイルはパソコンに入っておりますので。これまで大変お世話になりました。」  恭しくお辞儀をし、顔を上げ、部長を一瞥し、踵を返すとそのまま社外へ立ち去った。  精一杯の虚勢だった。  突然の出来事に同僚達もあっけに取られていた。  部長が何かわめいていたようだったが、もう何も聞こえない。
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