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もう少しで配り終える頃になった。
路地裏の大きなお屋敷の脇の横道に入って行く。
ギィー。
またマヌケな音が鳴る。
奥が突き当りになっていて、垣根の向こうに家がある。お屋敷とは対照的なあばら家だ。この家では玄関が開いている時は夕刊を放り投げていい事になっていた。垣根の手前にポストがあるのだが、奥様が2歳位の子を抱いたまま取りに来る姿がいかにも大変そうだったので、僕から提案したのだった。声を掛け、その玄関にかかる暑さ除けの薄いレースのカーテンの隙間から投げ込むのだ。
いつものように自転車を降り、垣根から玄関まで歩こうとしたその時だった。
不意にカーテンの間から可愛らしい女の子がひょっこり現れた。
もう一人子供がいたんだ。
肩まで伸びたサラサラの髪を揺らして、サンダルを履き、おぼつかない足取りでこちらへ向かって走ってくる。
「はーい。」と言いながら僕の方へ両手を伸ばした。
幼稚園児くらいだろうか。くりっとした大きなブラウンの瞳はビー玉のようにキラキラ輝き、純真な笑顔で真っすぐ僕を見つめ、真っすぐ腕を伸ばしている。
僕はその子の目の高さまでかがんで、
「夕刊です。」
と言ってそれを差し出すと、バッと奪い取り、カーテンの向こうへ走り去ってしまった。
それがその子との初めての出会いだった。
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