セカンドキス

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 出会って数カ月が経ち、雨の多い梅雨の時期になり湿度の増す時期アトリエの中は快適な温度に保たれている。 そんなある日、アトリエの白いドアの前で行き場を無くし愕然と何もかもが止まってしまった。 アトリエは先客がいた。ここに通い始めて初めて見る光景だった。後ろ姿しか見えないが長身の男を見上げながら親しそうに話し、時折見せる斎藤は瞳を輝かせ綻んだ口元は笑顔を振り撒いている。その男の腕は斎藤の肩に回り抱き寄せていた。 どう見たって絵を買いに来た客ではないことはわかる。 もしかしなくても斎藤の想いの人なのではないかと思わせるその甘い表情に、時臣は踵を返し足早に白い扉を後にした。 斎藤に恋人がいたっておかしくない。勝手に自分は特別だと思っていただけだ。 斎藤の想いの人が同じ嗜好を持つ相手であったかもしれないのがショックなだけだと自分の心を宥める。 斎藤が選んだ人だ、素敵な人に違いない。自分が週末通っていただけで平日は彼と過ごしていたのかもしれない。 どうして自分だけが特別だと思っていたのか。斎藤に想いを寄せていたのは一方通行な想いで、斎藤から何かを聞いたわけじゃない。 勝手に特別な存在だと思ってくれていると…… ……彼の友人でいようと思っていたじゃないか……自分の性癖を晒さなくてよかった。ただ斎藤といい関係のままいられたら…… いつの間にか時臣は頬を濡らしていた。大きく膨らんでしまった斎藤への想いが胸を締め付ける。 あやふやな形が浮き彫りになっていくようで歩く度にズシリと重くなっていった。 来た道を戻り、部屋に舞い戻ると早朝から干した洗濯物が風に靡いていた。これが本来の日常で、斎藤との時間は非現実的であったと落胆する。 人に依存すればまた捨てられるということをわかっていたのに、斎藤に惹かれていく自分の気持ちに抗えなかった。
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