初雪とドッペルゲンガー

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 気が付いたら、白い空間にいた。  周りを見回しても白いだけで、他に何もなかった。 「誰かいますか・・・?」  おずおずと言っても誰も返事をくれない。 「ここはどこ・・・?」  不安になってつぶやくと、どこからか足音がきこえた。 「ここは世界の世界の狭間(はざま)だよ」  足音の正体――小さな男の子は言った。 「ボクはソアト。ここに住んでるんだ。君をここに呼んだのはボクだよ」  ソアトくんはそう言って、どこからともなく中くらいの箱を二つ取り出した。 「この箱の中には世界が一つずつ入ってるんだ。こっちの黒いのは君の世界、青いのは詩織さんの住んでる世界だよ」  世界? この箱の中に? さっきここは世界と世界の狭間(はざま)だとソアトくんは言っていた。人間は動揺しすぎると逆に冷静になって本当だったんだな。と思いながらソアトくんの言葉を頭の中でくり返す。  こっちの黒い箱は私の住んでいる世界。  青いのは詩織さんの住んでいる世界・・・。  詩織さんの世界!? 「待って、私と詩織さんの住んでいる世界って違ったの・・・?」 「そうだよ。分かりやすく言うとパラレルワールドみたいなものかな。最近この世界の境界が薄れてて、君と詩織さんは出会ったんだよ。でももうその境界が元通りになったんだ。今日の十一時五十分ぐらいかな。詩織さんが消えたのはそのせいだよ」  パラレルワールド・・・。つまり詩織さんは《元から私の世界に存在しない人間》だったんだ。 「ここに君を連れてきたのは、詩織さんと君が出会ってしまったからなんだ。詩織さんには十一時頃にもう説明してるんだけど、君達の過ごした時間はまきもどさせてもらうよ」  時間を、まきもどす? 「そんなことできるの? っていうか、何でソラトくんはそんなこと知ってるの?」  私がそう尋ねると男の子は笑って言った。 「ボクはなんでもできるから」  ・・・え? 「じゃあ時間をまきもどすね! この前に立って!」 「え? あ、ちょっと待って!」 「何?」  私はずっと訊きたかったことをソアトくんに訊いた。 「あのさ、時間をまきもどしても、詩織さんのこと忘れないよね・・・?」 「・・・ごめんね。それは無理なんだ」 「えっ。じゃあ詩織さんのことは・・・」 「忘れなくちゃいけない。もちろん、ボクのことも」 「そんな・・・」  忘れたくない。そんな気持ちが強かった。  私が詩織さんを忘れるということは、詩織さんも私を忘れるということだ。  嫌だ。忘れたくない。忘れてほしくない。 「でもね、鈴音さん。人の記憶は完全に消せるものではないんだ。きっとどこかで覚えてるから。ね」  ソアトくんのその言葉に、私ははっとした。  そうだ。詩織さんも忘れたくないんだ。 「大丈夫? じゃあ時間をまきもどすね」  ソアトくんの言葉に私は強くうなずく。 「ばいばい――」  ソアトくんの声・・・が・・・。  何かあった気がして顔を上げた。  いつものショートカットの細い道路。  あ、そうだメール。  返信をしながら歩いていると、誰かにぶつかってしまった。 「す、すいませんっ」  といって顔を上げると――。  『私』がいた。  ・・・、訂正する。私っぽい人がいた。
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