初雪とドッペルゲンガー

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 着いたのは少し歩いたところにある居酒屋のような店だった。周りを見ても店というような店はなく、言ってしまえば『町外れ』というようなところだった。 「詩織さん、ここ?」  私がそう訊くと、 「そう。歩いてお腹空いてるでしょ。さ、入ろ」  と言って中に入ったので、私も続けて入る。 「「・・・」」  このとき私は忘れていた。私と白銀さんが、『ドッペルゲンガー』だということを。 「おっ! 詩織ちゃんの姉ちゃんかい?」 「あらー! すごいそっくりね!」  あっ、そっか。姉妹も似てるもんな。そういうことにしておこう。  そう思った矢先、白銀さんが 「ううん。違うよ。何と・・・。『ドッペルゲンガー』なの!」 「「・・・」」 「ちょっと! 白銀さん!? 何言って「へー。ドッペルゲンガーって本当にいるのかー!」  そのおじさんの声につられて、みんな笑いだす。  ドッペルゲンガーで納得してくれる人達なんだ。優しい人達だな。  そう思って私はほっと胸をなでおろす。 「さ、さ、座って」  店のおばさんにすすめられて、私達はあいている席に座る。 「おばさん、いつもの! あ、あと、鈴音ちゃんは? どうする?」  そう訊かれて、メニューとにらめっこしていた私は、 「ちょっと待ってください・・・」  と答える。クリームシチューにしようか、パスタの方にしようか、なやみ続ける。 「敬語! よし、ペナルティーとして、私のおすすめをたのんであげよう」 「え!?」  うわぁ・・・。敬語怖い・・・。何たのまれるんだろ? 少し不安である。 「じゃがバターと、あとチーズおでん! にんじんとハムとキャベツで!」  そうたのむ白銀さんの後ろに続いて、 「クリームパスタください!」  と言う。結局そっちにした。 「え!? たのんじゃだめだよ!?」  と言う白銀さんに 「たのんじゃいけないとは言われてませんー」  と返す。すると白銀さんは 「じゃあおでんに激辛ソースをつけてください」  というので 「すいません! ごめんなさい! それだけはやめて!」  と返すと、白銀さんはにやっと不気味な笑みをこぼして、 「じゃあやっぱなしで」  と訂正してくれた。  そんな私達の様子を見ていたおじさんが、 「友達ができて、詩織ちゃん、いつにもまして元気だねぇ。いいこと、いいこと」  と笑顔で言った。  その一言で居酒屋の中にはまた笑い声が満ちた。  出てきた料理は、あったかくって、おいしかった。
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