初雪とドッペルゲンガー

6/9
前へ
/9ページ
次へ
 詩織さんと出会ってから、九日が経った。  白銀さんと呼んでいたのを数回怒られ、敬語も言う度にペナルティーが発生し、やっとこの呼び名になれてきたところだった。  今日は日曜日。詩織さんと新しく見つけた塩ラーメンのお店に一緒に行くことになっている。  集合は十一時半。ちょうどお腹が空く時間帯である。  で、現在十時。三十分は歩くのに使うことにした。  あと一時間何しようかなー。  あ! そうだ! そう思い立って私は部屋の隅に置いてあった小さめの段ボール箱を引っぱり出してきた。  中身は――。 「なつかしー!」  服や写真、アクセサリーなど。  これは私が東京に持ってきたはいいものの、ヒマがなくてのんびり見れなかった思い出のものを詰め込んだ箱である。  その箱に入っていた写真の中に、私と姉が写っていた。 「お姉ちゃん元気にしてるかなー?」  姉とは私が小学校六年生のとき両親の離婚で別れた後、一度も会っていない。うっすらと顔や声の記憶はあるのだが・・・。 「名前が思い出せないんだよなー・・・」  昔からお姉ちゃんと呼んでいたせいか、どうしても名前が思い出せない。でも最近はもうどうでもよくなった。  ふと顔を上げると、視界の端に時計が映る。  十時四八分。  もうそろそろ出かける準備をしようかと思い、段ボール箱の中に入っていたものをしまいだす。  コートを着ているところでスマホが鳴った。  遅れたら怒られそうだったのでアラームを十一時の五分前にかけておいたのだ。  スマホのもとに行こうとすると、音が止まった。 「あれ? メール?」  でも集合は十一時半の予定だから詩織さんでもないし、今日は休みだから会社でもないし……。  そう思って開くと、詩織さんからだった。 『家、行ってもいい?』  ・・・。何でだろ? とりあえず返事を打つ。 《別にいいよ! 何かあったの?》  ピコン。おっ、きた。あいかわらずはやい。 『んーん。何となく会いたいだけ』  そっか。  っていうか、それなら早めに昼ごはんじゃだめなのかな?  ちょっとお腹空いてきたんだけど・・・。 《別に来てもいいけど、私お腹空いてるんで、早めにお昼ごはんどう?》  ピコン。あ、きた。 『鈴音ちゃんこの後ヒマ?』  ? 話が飛んだ。  今日は会社休みだし、この後予定もないし・・・。 《ヒマですよ。》  ピコン。 『じゃあご飯食べたあと話ね! 塩ラーメン食べに行こー!』 『でも私、実はみそ派』  話ってなんだろ。  っていうかみそ派なのに塩ラーメン食べに行くんですか!?  なんていうツッコミは心の隅に置いといて。  時計を見る。  十時十分ちょっと前。  もうそろそろ出なきゃと思い用意を再開する。  そのとき、視界の端に何かが映った。  片付け忘れたものかな? 「何だろ?」  かけ寄って見ると、それは私とお姉ちゃんのツーショット写真だった。  私は悩みに悩んだあげく、その写真を写真立てに入れて玄関に置いた。  写真をながめていると、急にさびしくなった。 「会いたいな。お姉ちゃん」  待ち合わせ場所に行くと、案の定詩織さんはもうそこにいた。 「遅いなぁ。メールしてから十分経ったよ」 「あの、ここ家から十分かかるからむしろすぐ出てきたことをほめてほしいんだけど」 「はははっ。じゃ、お腹も空いたし行きますか」  詩織さんのその言葉で私達はラーメン屋に向かって歩きはじめた。 「っていうか話ってなんですか?」  私はメールで言ってた『話』のことを訪ねる。 「それは、ラーメン食べてから話す! っていうか食べ終わって話す気になったら話す! だから今日話さないかもしれない」 「え!? 何なのそれ」  二人で笑い合いながら会話を続ける。 「なつかしいなぁ」  ふと詩織さんはそう言った。  不思議に思って私が詩織さんを見ると、詩織さんは少し驚いた顔をしてから一人で納得して言った。 「いやー。私には姉がいてさ。私が小六のときに別れたんだけど。って、この話、後でするつもりだったんだけどさ」 「へぇー。実は私も小六のときに姉と離れ離れになって」 「・・・。そっか」  詩織さんは静かにそう言ってうつむいた。  どうしたんですかと訊く間もなく、ラーメン屋についた。ラーメンは券を買う形式で、私は迷いなく『塩ラーメン』を選んだ。  詩織さんはまだ 「塩ラーメンにするか・・・。いや、でもみそラーメンもいい・・・」  とかつぶやきながらまだ悩んでいる。  先に席に着いて塩ラーメンをたのむ。  二、三分待つと詩織さんが来た。 「みそラーメンにした」 「結局そっちなんだ」 「まあね」 「そこいばるところじゃない」  話をしていると塩ラーメンが来た。 「おいしそー!」 「ほんとおいしそうだね。あー。私のも早くこないかなー」 「へい、お待ち」 「わぁ。私のも来たー! おいしそうな匂いー!」 「じゃあ、いただきまーす!」 「いただきます」  一口食べると、すごくおいしくてそのまま二口目、三口目とどんどん食べ進めてしまう。  水を飲もうと顔を上げると、となりで詩織さんは幸せそうにみそラーメンを食べていた。 「そうだ! ちょっと食べ比べしてみません?」  私がそう提案すると詩織さんが塩ラーメンも食べてみたい! と言って食べ比べをした。  みそラーメンもみそラーメンでおいしかった。でも私は塩派かな。 「詩織さんどうだった? 私はやっぱり塩の方がおいしいと思うけど」 「んー。みそもおいしいけど塩もおいしいねー。どっちかなんて選べないや!」  私達は交換していたラーメンばちをお互い返してまた自分のラーメンを食べはじめた。  そういや詩織さんってよくんー、っていうよね。  口ぐせなのかな? とか思いながら食べているとあっという間に食べおわった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加