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────まずい。
「夜! あんなやつの言葉を気にすることない!」
朝陽の言葉に夜々斗が泣き出してから、優樹と友人たちで朝陽を追い返した。
それから優樹も友人たちもずっと夜々斗に呼びかけているのに、何も聞こえていないように夜々斗は反応せず、その目から落ちる涙が止まらない。
────泣いてるのに、人形になってしまったみたいだ。
「月様は何も悪くないんです! だから泣かないで、月様……」
夜々斗の肩を掴んで呼び続ける優樹も、夜々斗の手を握って願う友人たちも、全員が後悔していた。
朝陽が姿を表したあの時に、好き勝手に喚き出す前に、無理矢理にひきずってでも夜々斗から引き離すべきだったと。
声を上げずにただひたすら涙を溢す夜々斗の姿に、己の無力さに、優樹の瞳にも涙が滲んだ。
「今日の勉強会はもう終わりにする。
夜は……、休ませる」
夜々斗の肩から手を離して、下を向き強く目を瞑ってから、優樹が友人たちに伝えた。それに誰も異を唱えることなく頷いた。
夜の心が今にも壊れてしまいそうなことを全員が感じていた。
「月様、また笑ってお話してくれますよね?」
「信じて、待ってますから」
「友達だって言い返してくれて嬉しかったです」
「佐良様、月様をよろしくお願いします」
優樹は夜々斗をそっと抱え、友人たちの言葉のすべてにしっかりと頷いてから中庭を後にした。
寮の部屋に戻るときも、部屋についてソファに座らせたあとも、夜々斗が泣き疲れて電池が切れたように眠りにつくまで、優樹はずっと夜々斗を呼び続けた。その声のたった一つでも、夜々斗の心に届くことを願って。
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